身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第八章 領主館

17.オズヴァルド様とシプリアノ

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 大広間に残されてしまった私たちは、どうしよう…と顔を見合わせる。
 使用人たちが片づけをしたがっているようだったので私はアレク様の胸から離れて言った。
 「片付けの邪魔みたいなので、もう少し端に寄りましょうか」

 皆は驚いたように「え?」と辺りを見回して「あ、ああ…そうだね」と移動する。
 アレク様が周りにいる使用人たちにラ・カドリナ国の言葉で『良きに計らえ』と言うと、使用人たちは戸惑ったようにその場に立ち尽くす。

 『片付けを始めてくださって結構ですよ』
 と私が言うと、ようやく理解したようにぺこぺことお辞儀して動き出した。

 アレク様は面白そうにくすくすと笑う。
 「まだ客人がいるのに片づけを始めるのか…
 どういう教育されてんだ、ここの使用人は」

 「恐らく在郷の人たちが、とりあえずの手伝いに駆り出されたのだと思います。
 各々、この近くに家があって待っている家族があって明日からの仕事もあるのでしょう」
 私がとりなすように言うと、アレク様やエルヴィーノ様、オズヴァルド様にシプリアノははっとしたように使用人たちを見回した。

 「…そうだな、この者たちにも日々の生活があり家族がいて人生がある。
 宮廷にいるとどうしても忘れがちになってしまうのだが…
 今回の馬鹿どもの蜂起でシエーラのみならず、他の地域の者たちにも迷惑をかけたことを忘れてはならないな。
 復興に力を尽くすのと同時に、国境に住む民には軍事訓練も施さなければ」
 
 アレク様の言葉に、私たちはしんとして聞き入る。
 今回、都の軍人や傭兵では足りず、徴兵されたのはそこに住む小作人たちだ。
 日頃何の訓練も受けておらず、ただ逃げまどって嘆きながら亡くなった人も多かったはず。
 こんな悲劇は、もう二度と起こらないようにしなければ。

 「ヘイデンスタム殿には礼を申し上げる。
 ラ・カドリナ国の領地内であるにもかかわらず、我が妃に軍配を上げてくれてありがとう」
 アレク様が声をかけると、ちょっと離れて立っていたヘイデンスタムはにこっと笑ってお辞儀した。

 「お褒めの言葉を賜り、大変光栄に存じます。
 わたくしは厳正な審判を下しただけでございますよ。
 お妃様の教養は、大国の王女様にまったく引けを取らないことを、お妃様ご自身が堂々とお示しくださった。
 それをわたくしは正しく評価したに過ぎません。
 実際、お妃様のお歌は大変すばらしかった」

 うんうんと皆が頷いてくれて私はアレク様に抱き寄せられながら頬を染めた。
 夢中だったからあまり深く考えてなかったけど、私ったら、王女様相手にとんでもないことを…

 「それはそうと。
 オズヴァルドとシプリアノ、お前ら何でヘイデンスタム殿と一緒に現れたんだよ?
 ビックリして危うく声をあげるとこだったぞ」 
 雑駁な口調でエルヴィーノ様がお二人に問う。

 オズヴァルド様とシプリアノは顔を見合わせて笑った。
 「ヘイデンスタム殿に偶然出会えたのがすごいラッキーだったんだよ。
 俺たち、クレメンティナのお母上から懇願されたし俺たち自身も心配だったから、何とかこの城の中に忍び込めないか近くまで来て悩んでいたんだ。
 そこにヘイデンスタム殿が通りがかって、一夜の宿を乞うておられたので、咄嗟に声をかけた」

 ヘイデンスタムもくすくす笑って話に入ってくる。
 「最初は、ものものしい警備の兵をお連れになった方々からお声をかけられて、非常に緊張して警戒しておりました。
 が、お話を伺っているうちに、私の野次馬根性というか出歯亀根性というか、とにかく面白そうな話には敏感な吟遊詩人としての勘が、この話に乗っかれと囁いたのです」

 「執事にこの城にある美術品骨董品を見せてもらった時、オズヴァルド様とシプリアノ様も、すぐに盗難品であることに気づかれたようでしたが、何も仰らずそのまま淡々としていらしたので、私もそのまま教養試験のお題にすることにいたしました。
 お妃様と王女様がお判りにならなかったら、私が暴露するつもりでおりましたが…」

 そう言って、ヘイデンスタムはにこりと笑って私に向かって慇懃に礼をする。
 「この素晴らしき事態に立ち会わせていただき、誠に有難うございます。
 私の作詞家としての情熱を最大限に注ぎ込んで、必ずや一大叙事詩に仕立てあげてみせます。
 その他の興味深いお話もまた、このままダリスカーナまでお供いたしましてお聞かせいただきたく存じます」
 最後の言葉と共にパチンと鮮やかにウィンクする。

 さすがに諸国をリウト一本抱えて旅して回る吟遊詩人。
 滅多なことでは動じないし、更にどんなことでも自分の糧にしてしまう神経が一筋縄ではいかないわ。
 私たちは思わず顔を見合わせて苦笑する。

 「さて…俺たちはこの後どうすりゃいいんだ。
 執事がいなくなっちゃって、誰が采配振るうんだ?」
 アレク様が呆れたように言い、エルヴィーノ様が思案顔に口を開いた。

 「しかし、俺たちもシエーラの戦後処理があるし、アレクだって早いとこ都に帰らないと。
 とっととラ・カドリナとの協議を済ませてしまいたいのに、ラ・カドリナの重臣が来て話し合うまでお預けってのは困るよなあ」

 確かに。
 考え込む皆を他所に、アレク様はさらっと言った。
 「明日の朝までは待ってやって、それまでに決まらなかったらこちらがイニシアチブ取って強引にでも決めてやるさ」

 その時ようやく扉が開き、レセンデス王の侍従が『大変お待たせいたしました申し訳ありません!』と言いながら駆け込んできた。
 『ヘイデンスタム様とお弟子様方のお部屋も急ぎ準備いたしておりまして。
 こちらでございます』
 とカンテラを持って先に広間を出て行く。
 私たちは少しホッとして、侍従の後に続いた。
 
 
 
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