身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第八章 領主館

18.ラ・カドリナの異変

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 私とアレク様には別室が用意されていたが(当然と言えば当然)、アレク様がめちゃくちゃ怒って同じ部屋にしてしまった。
 普通の王侯貴族は夫婦だからといって一緒の寝室で、ましてや同じベッドで寝むなんてことはない。
 私のお父様とお母様は一緒にお寝みになっておられたけど。
 なぜなら、別ける部屋がなかったから。

 領主が住んでいたとはいえ、山城のような城だからあまり装飾もなく簡素な部屋だった。
 侍従は大公様をお迎えできるような場所ではなくて申し訳ありませんと恐縮していたが、この状況では自国の王様を最高級の部屋に通すのは当たり前だし、私たちは招かれたとはいえ、立場的には敗戦の徒だ。
 アレク様は「気にしなくて良い」とあっさり言って下がらせた。

 私がアレク様の着替えをお手伝いし、私はデメトリアに手伝ってもらって着替えを済ませる。
 といってもあまりぐっすり眠って良い環境でもないため、ごく簡単に衣服を取り替えただけだ。
 私もアレク様もエセルバート様の厳しい訓練を受けているため、なんなら鎧のままでも眠れる。

 デメトリアを下がらせて二人になると、アレク様は私を抱き上げてベッドに降ろして枕に背を預ける形で座らせ、その隣に座って私の肩を抱く。
 「今日のクレメンティナは、本当にすごかった。
 改めて俺はなんと素晴らしい人に出会って愛したのだろうと、己を褒めてやりたい気分だ。
 セレスティナ王女に負けることはあるまいとは思ったが、向こうも本気のようだったし、良くて相討ち、悪ければ向こうの身贔屓で不利になると危惧した」

 私はアレク様の胸に寄り掛かり、温かな体温を感じて目を閉じ、首を横に振る。
 「いいえ…両親の教育やサン=バルロッテ館の図書室、そしてエセルバート様やファディーニ様がわたくしに鉾や鎧となる知識や技術を授けてくださったおかげですわ。
 そして、ヘイデンスタム様がどちらにも忖度せずに完全に中立の立場でジャッジしてくださったから…」

 それに、と呟いて、私は思わず黙り込む。
 アレク様は、ん?と私の顔を覗き込むようにして促し、私は思い切って言葉を継いだ。
 「アレク様を絶対に、セレスティナ王女様には渡したくなかっ…」
 た、と言う前にアレク様に唇を唇で塞がれる。

 「ん…っ」
 次第に仰向かされてさらに深く口づけられ、私は息苦しくなって声を上げる。
 アレク様は唇を離して「…そんな声を上げられたら…我慢できなくなる」と言って私をベッドに押し倒し、覆いかぶさってきた。

 また何度もキスを繰り返しながら胸をまさぐられて、アレク様の長い指が夜着の合わせめから入り込み直接肌に触れて、尖った先端を優しくいらう。
 「あ…はっ」
 私は声を上げそうになり、自分の声に我に返る。

 「だ、ダメですアレク様!」
 もしかしたら刺客が送り込まれているかもしれないのに。
 「そなたのせいだ、そなたが可愛いことを言って煽るから…」
 アレク様は浮かされたような声で囁き「クレメンティナ…愛してる」と尚も首筋に舌を這わせ強く吸う。

 「ちょ…いけませんったら!
 そんなことするなら、わたくし他の部屋へ」
 「それは許さぬ、そなたがここに居なければ…
 オレは眠れない。
 もうお前無しではまともに休むことすらできなくなってしまった」

 深い茶色の瞳に熱を宿したまま、アレク様は熱い吐息の中から囁く。
 せめてこの想いを共有したい、と呟いて、アレク様は顔を近づけて何度も長いキスをした。

 抱きかかえられたまま眠りに就き、私は温かいアレク様の温もりに安心して、こんな状況であるにも関わらず目を覚ますこともなかった。
 が、明け方ごろに何だか城の中が騒がしいような気がして、目を開けるのと同時にアレク様が身じろぎするのが判った。

 「起こしたか」
 半身を起こしながらアレク様が訊き、私は首を横に振った。
 「何か…物音が」
 「ああ、オレも今気づいた。
 お前はまだ寝ていろ」
 「いえ、わたくしも起きます」

 二人で手早く身支度を済ませる間にも、だんだん騒がしさが増していき、厚い鎧戸の外からも馬のいななきや人の話し声が聞こえてきた。

 コンコン、とノックの音がし「アレク…起きてるか」とエルヴィーノ様の潜めた声が聞こえた。
 「ああ、クレメンティナも起きてるから入って良いぞ」
 アレク様が答えると扉がそっと開いて、滑るようにエルヴィーノ様とエセルバート様が入ってきた。

 「重臣達が到着したのか」
 アレク様が問うと、エルヴィーノ様は眉をひそめた。
 「いや、どうもそうじゃないらしい。
 今、城にいる者たちに尋ねても誰もまともに答えない。
 侍従も真っ青な顔して駆け回ってるから、レセンデス王か…もしくは首都で何かあったのかもしれない」


 「いずれにせよ、オレ達と協議どころではないということか?
 面倒だな。
 どうするか…」
 アレク様が顎を搔きながら言ったとき、また扉が遠慮がちにノックされた。

 『アレッサンドロ陛下、ロレンシオでございます。
 朝早くに申し訳ありません。
 少し宜しいでしょうか』

 ロレンシオ王子?
 私たちは顔を見合わせる。
 
 「どうぞお入りください、ロレンシオ殿下」
 アレク様が声をかけると、ドアが開いてロレンシオ王子が一人で入ってきた。

 
 

 
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