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第一章.小国メンデエル
8.晩餐
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「リンスターの視線が怖いな。
あなたの考えているような意味じゃないよ」
ギルベルトお兄様はくすくす笑いながら私を見た。
「体が丈夫というのは、恵まれているってことだよ。
リンスターはたくさんの子供を産むことができ、ルーマデュカの次期国王の国母になれる。
我がメンデエル王国とルーマデュカ王国の結びつきは、より強固なものになる」
お兄様はそう言って、また葡萄酒を飲む。
「大叔母上はお身体が弱くていらっしゃった。
たった一人授かったお子も夭折なさって、お世継ぎは王陛下の甥御殿になってしまった。
大叔母上は、宮廷の中でひどく肩身の狭い思いをなさったことだろう。
父上は、姉上を嫁がせたら、大叔母上のようになりはしないかとご心配なのだろうと思う」
そうか…私は七面鳥の焼き物を噛みながら少しうつむく。
お姉様は私が考えている以上に、お身体が弱いのかもしれない。
最近全然お会いしていないから判らないけど、以前城の庭でお目にかかったときは透き通るような、いっそ蒼いともいえる肌の色でいらして、侍女に身体を支えられながらお散歩なさっていた。
「お姉様は大丈夫よ。
わたくしにいつもお勉強を教えてくださるけれど、バルバラよりも全然解りやすいもの。
語学に秀でていらっしゃるし…
あの厳しいクヴァント先生も、いつもお姉様のルーマデュカ語を褒めていらっしゃるわ」
妹のマルグリートが明るく言う。
私は軽く睨んだ。
「こら、バルバラ先生でしょう。
あなたが真面目に聞かないから解らなくなっちゃうのよ。
わたくしももう、あなたに教えることはできなくなってしまうのだから、きちんと自分でお勉強しなくてはダメよ」
私が諭すように話すと、マルグリートは「そうね…お姉様は居なくなってしまわれるのね」と呟き、しゅんとしてしまう。
「宰相が先ほど父上のお部屋を辞してきて『リンスター王女殿下のお妃教育はどのようにしたらよいだろうか』というようなことを呟いていましたが…
私はその場で笑いをこらえるのに苦労しましたよ。
リンスター姉上が田舎の娘のような振る舞いをするとでも思っているのでしょうかね」
弟のルートヴィヒが可笑しそうに口元に手をあてて笑い、呆れたように言った。
「ギルベルト以外は、お父様のお子だと思っていないのよ、あの宰相は。
いつも見下したような発言ばかり。
本当に腹立たしいわ。
リンスターが生まれた時だって…」
お母様の涙ながらの愚痴が始まる。
これが始まると長いんだよなあ…
内心こっそりため息をついていると、お兄様と目が合った。
お兄様は私にぱちんと片目を瞑ってみせ、にこりとお茶目に笑った。
「まあまあ、母上。
母上の先見の明と慧眼により、私たちきょうだいは皆、十分な教育と教養を身に着けることができたのです。
宰相が何も知っていなくても構わないではありませんか。
リンスターは大丈夫ですよ、ルーマデュカで立派に王太子妃としてやっていけますとも。
ま、王太子がちょっとアレですが…」
お兄様が母上を慰める。
お母様はハンカチで涙を拭き、うなずいた。
「…そうよね。
リンスターをあの、見た目は良いけど悪い噂しかない、女性にだらしない腹黒王太子の許に嫁かせるのは不安だけれど。
嫌になったら、いつでも帰っていらっしゃいね。
もともとのお約束の通り、エリーザベト王女が嫁げばよいのですからね」
うーん。
それも暴論のような気がするけど…
お母様も、それからきょうだいたちも私が大国の王太子妃になることを全然危ぶんでないことは判った。
心配しながらも慰め励ましてくれる、その気持ちがとても嬉しくて、心が少し軽くなった気がした。
あなたの考えているような意味じゃないよ」
ギルベルトお兄様はくすくす笑いながら私を見た。
「体が丈夫というのは、恵まれているってことだよ。
リンスターはたくさんの子供を産むことができ、ルーマデュカの次期国王の国母になれる。
我がメンデエル王国とルーマデュカ王国の結びつきは、より強固なものになる」
お兄様はそう言って、また葡萄酒を飲む。
「大叔母上はお身体が弱くていらっしゃった。
たった一人授かったお子も夭折なさって、お世継ぎは王陛下の甥御殿になってしまった。
大叔母上は、宮廷の中でひどく肩身の狭い思いをなさったことだろう。
父上は、姉上を嫁がせたら、大叔母上のようになりはしないかとご心配なのだろうと思う」
そうか…私は七面鳥の焼き物を噛みながら少しうつむく。
お姉様は私が考えている以上に、お身体が弱いのかもしれない。
最近全然お会いしていないから判らないけど、以前城の庭でお目にかかったときは透き通るような、いっそ蒼いともいえる肌の色でいらして、侍女に身体を支えられながらお散歩なさっていた。
「お姉様は大丈夫よ。
わたくしにいつもお勉強を教えてくださるけれど、バルバラよりも全然解りやすいもの。
語学に秀でていらっしゃるし…
あの厳しいクヴァント先生も、いつもお姉様のルーマデュカ語を褒めていらっしゃるわ」
妹のマルグリートが明るく言う。
私は軽く睨んだ。
「こら、バルバラ先生でしょう。
あなたが真面目に聞かないから解らなくなっちゃうのよ。
わたくしももう、あなたに教えることはできなくなってしまうのだから、きちんと自分でお勉強しなくてはダメよ」
私が諭すように話すと、マルグリートは「そうね…お姉様は居なくなってしまわれるのね」と呟き、しゅんとしてしまう。
「宰相が先ほど父上のお部屋を辞してきて『リンスター王女殿下のお妃教育はどのようにしたらよいだろうか』というようなことを呟いていましたが…
私はその場で笑いをこらえるのに苦労しましたよ。
リンスター姉上が田舎の娘のような振る舞いをするとでも思っているのでしょうかね」
弟のルートヴィヒが可笑しそうに口元に手をあてて笑い、呆れたように言った。
「ギルベルト以外は、お父様のお子だと思っていないのよ、あの宰相は。
いつも見下したような発言ばかり。
本当に腹立たしいわ。
リンスターが生まれた時だって…」
お母様の涙ながらの愚痴が始まる。
これが始まると長いんだよなあ…
内心こっそりため息をついていると、お兄様と目が合った。
お兄様は私にぱちんと片目を瞑ってみせ、にこりとお茶目に笑った。
「まあまあ、母上。
母上の先見の明と慧眼により、私たちきょうだいは皆、十分な教育と教養を身に着けることができたのです。
宰相が何も知っていなくても構わないではありませんか。
リンスターは大丈夫ですよ、ルーマデュカで立派に王太子妃としてやっていけますとも。
ま、王太子がちょっとアレですが…」
お兄様が母上を慰める。
お母様はハンカチで涙を拭き、うなずいた。
「…そうよね。
リンスターをあの、見た目は良いけど悪い噂しかない、女性にだらしない腹黒王太子の許に嫁かせるのは不安だけれど。
嫌になったら、いつでも帰っていらっしゃいね。
もともとのお約束の通り、エリーザベト王女が嫁げばよいのですからね」
うーん。
それも暴論のような気がするけど…
お母様も、それからきょうだいたちも私が大国の王太子妃になることを全然危ぶんでないことは判った。
心配しながらも慰め励ましてくれる、その気持ちがとても嬉しくて、心が少し軽くなった気がした。
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