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第一章.小国メンデエル

12.輿入れの準備

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 それからの1か月間は、本当に目が回るような忙しさだった。
 私は王族のたしなみとして透けるように白い肌を目指すために血を抜いたり、美肌を演出するためのメイク法を教わったり、腰回りを集中的にコルセットで絞ったりした。
 胴をぎゅうぎゅうに締め上げられながらコロスキカ!と何度も叫びそうになった。

 そうか、ラウツェニング宰相が言ってた『お妃教育』っていうのは、座学だけでなくこういうのも含まれてるのか。
 私が甘かったわ、ごめんね宰相。
 こういうのだったら、お姉様の方が向いてるわよ絶対。
 青白い顔色も透けるような肌もほっそい胴も。
 庭でお見かけしたときのあの顔色の悪さは、もしかしてメイクによる演出だったのかしら…

 お父様との謁見の時、宰相は『下手に見栄を張れば、恭順の意思がないと見做みなされる』と呟いていたけれど。
 私から見れば、できるだけのことはやってくれているようだった。

 宰相から業務を委託されたというアウフレヒト侯爵夫妻は、過去の文献やお母様に昔から仕える侍女の話などを参考にしながらたった1か月の間に必要なものはすべて取り揃え、ルーマデュカに発送してくれた。
 特に、侯爵夫人は誰も知る人のいない大国にたった一人で嫁いでいく私の不安に優しく寄り添ってくれて、私は時に折れそうになる心をずいぶん慰められた。

 クラウスを連れていくことに理解を示してくれたのも、アウフレヒト侯爵夫人ただ一人だった。
 お母様や私の教育係のユーベルヴェークに直接、何度も話をして、なんとか了解を取り付けてくれた。

 「わたくしも、侯爵家にお嫁に来るときはそれはそれは不安だったものですわ。
 侯爵様ご本人とは幼いころからの知り合いでしたけど、他家に足を踏み入れるのは怖いものでしたわ。
 侯爵家のしきたりや慣習に慣れることができるか、お義父様お義母様とうまくやっていけるか。
 わたくしはペットのアロイスに気持ちをずいぶん助けられましたの。
 他国に嫁がれるリンスター王女様にも、そういったペットは必要だと思いますわ」

 ペット…かぁ。
 まあそういう理解かな、一般的には。
 でも、侯爵夫人が強力に援護してくれなかったら、連れてはいけなかった。
 感謝しなくちゃね。

 しかし、準備の期間中もとりたててルーマデュカから要望はなかったようだ。
 王太子からの手紙や肖像画などが送られてくることもなかった。
 私は一度だけ手紙を書いたけど、もちろん何もなし。

 なんだか本当に、私なんてどうでもいいんだなあ…
 それでいいと思いながらも、ほんの少し寂しかった。
 まあ、ルーマデュカの公爵令嬢と張り合う気なんてさらさらないから、願ったり叶ったりよ、ね。

 そんなこんなで、あっという間に私がルーマデュカに行く日が来た。
 
 
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