41 / 161
第四章 王宮で
5.ジェルヴェの話
しおりを挟む
アウフレヒト侯爵夫妻は、それから2週間ほど滞在して帰国の途についた。
その間、毎日宮殿内で催されている昼餐会や晩餐会、舞踏会やパーティに一度も呼ばれないことに、驚きつついろいろと思うことがあったようだけれど、表立って何かを口に出すことはなかった。
ジェルヴェは私とダンスするのがいたくお気に召したらしく、結構な頻度でヴァイオリニストを連れてきて(やっぱりコンサートマスターだった。宮廷の舞踏会は大丈夫かしら…)、私の手を引いて踊りだす。
今、私たちがハマっているのは、メンデエル風の踊りとルーマデュカのステップを融合させて新たなダンスを創りだすことだった。
クラウスは、メンデエルにいたころから私のダンスの授業には同席していて、先生からいつも注意されていたクセなども熟知しているので、いろいろとアドバイスをくれる。
意外なことに二コラも、下働きのおつかいで城内をあちこち行かされている途中で、貴族たちのダンスをこっそり見る機会があるらしく『姫様とジェルヴェ殿下のようにダンスのお上手な方たちは居ません!』と断言していた。
いや…王太子も意外と上手よ。
アンヌ=マリーは知らんけど。
王太子がくれた本を私が繰り返し眺めているのを見て、ジェルヴェは少し笑って提案してくれた。
「リンスターは書物がお好きなようですね。
王宮の書庫に入れるように手配しましょうか。
ルーマデュカは比較的新興国ですから、古書などはあまりありませんが、戦火で焼けたこともないので蔵書数はすごいですよ」
もともと読書好きの私はその言葉に目を輝かせる。
本は重いから、メンデエルからはほんの少ししか持ってこられなかった。
「またそういう愛らしいお顔を…
リンスターは私の我慢の限界を探っておられるのかな?」
冗談ぽく言いながら、ジェルヴェは少し切ない表情で私の頬にキスする。
私は避けようといつも思うのだけれど、洒脱な彼のスマートな仕草につい見惚れているうちにいつもなすがままになってしまう。
一応、人妻なんですよ、対外的には。
中身は全然、初心な処女なんですけどね。
まあ、王太子だって堂々と愛妾を囲っているわけだし、ジェルヴェによると宮廷は常に男女問題でごたごたが起きているらしい。
明るく奔放な宮廷の雰囲気は、男女関係にも影響を及ぼしているらしい。
ジェルヴェは毎日のように私の所へ来ていて、奥方に怒られないの?と訊いたことがある。
すると彼は急に瞳を翳らせて呟くように話し出した。
「私は独身ですよ。
婚約者がいたのです。
幼いころから知っている、侯爵の令嬢です。
しかし、5年前に国内で熱病が流行ったときに、呆気なく命を持っていかれてしまいました。
リンスターのように、くるくると表情の変わる、明るく芯の強い、愛らしい娘でした」
私は言葉を失って「…そう…今でもその令嬢を忘れられなくて、独身を貫いているの?」と小さく訊く。
ジェルヴェはぱっと顔を上げてニコッと笑う。
「いえ?違いますよ。
独身の方が何かと気ままで都合が良いことに気づいてしまっただけの話で。
こうやって、リンスターの許に夜な夜な来ていても、誰も怒るものは居ないし。
リンスターに愛を囁くこともできるというわけですよ」
私を見つめて艶っぽく微笑む。
私はなんだかどきどきしてしまって、うつむいて目を逸らした。
そんな私の頭を優しく撫でながら、ジェルヴェは聞こえないほどの小さな声で呟く。
「…怒るのは、フィリベール、ただ一人だな」
その間、毎日宮殿内で催されている昼餐会や晩餐会、舞踏会やパーティに一度も呼ばれないことに、驚きつついろいろと思うことがあったようだけれど、表立って何かを口に出すことはなかった。
ジェルヴェは私とダンスするのがいたくお気に召したらしく、結構な頻度でヴァイオリニストを連れてきて(やっぱりコンサートマスターだった。宮廷の舞踏会は大丈夫かしら…)、私の手を引いて踊りだす。
今、私たちがハマっているのは、メンデエル風の踊りとルーマデュカのステップを融合させて新たなダンスを創りだすことだった。
クラウスは、メンデエルにいたころから私のダンスの授業には同席していて、先生からいつも注意されていたクセなども熟知しているので、いろいろとアドバイスをくれる。
意外なことに二コラも、下働きのおつかいで城内をあちこち行かされている途中で、貴族たちのダンスをこっそり見る機会があるらしく『姫様とジェルヴェ殿下のようにダンスのお上手な方たちは居ません!』と断言していた。
いや…王太子も意外と上手よ。
アンヌ=マリーは知らんけど。
王太子がくれた本を私が繰り返し眺めているのを見て、ジェルヴェは少し笑って提案してくれた。
「リンスターは書物がお好きなようですね。
王宮の書庫に入れるように手配しましょうか。
ルーマデュカは比較的新興国ですから、古書などはあまりありませんが、戦火で焼けたこともないので蔵書数はすごいですよ」
もともと読書好きの私はその言葉に目を輝かせる。
本は重いから、メンデエルからはほんの少ししか持ってこられなかった。
「またそういう愛らしいお顔を…
リンスターは私の我慢の限界を探っておられるのかな?」
冗談ぽく言いながら、ジェルヴェは少し切ない表情で私の頬にキスする。
私は避けようといつも思うのだけれど、洒脱な彼のスマートな仕草につい見惚れているうちにいつもなすがままになってしまう。
一応、人妻なんですよ、対外的には。
中身は全然、初心な処女なんですけどね。
まあ、王太子だって堂々と愛妾を囲っているわけだし、ジェルヴェによると宮廷は常に男女問題でごたごたが起きているらしい。
明るく奔放な宮廷の雰囲気は、男女関係にも影響を及ぼしているらしい。
ジェルヴェは毎日のように私の所へ来ていて、奥方に怒られないの?と訊いたことがある。
すると彼は急に瞳を翳らせて呟くように話し出した。
「私は独身ですよ。
婚約者がいたのです。
幼いころから知っている、侯爵の令嬢です。
しかし、5年前に国内で熱病が流行ったときに、呆気なく命を持っていかれてしまいました。
リンスターのように、くるくると表情の変わる、明るく芯の強い、愛らしい娘でした」
私は言葉を失って「…そう…今でもその令嬢を忘れられなくて、独身を貫いているの?」と小さく訊く。
ジェルヴェはぱっと顔を上げてニコッと笑う。
「いえ?違いますよ。
独身の方が何かと気ままで都合が良いことに気づいてしまっただけの話で。
こうやって、リンスターの許に夜な夜な来ていても、誰も怒るものは居ないし。
リンスターに愛を囁くこともできるというわけですよ」
私を見つめて艶っぽく微笑む。
私はなんだかどきどきしてしまって、うつむいて目を逸らした。
そんな私の頭を優しく撫でながら、ジェルヴェは聞こえないほどの小さな声で呟く。
「…怒るのは、フィリベール、ただ一人だな」
2
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる