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第四章 王宮で
8.小さな庭
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長かった夏も終わり、木々の葉の色が少しずつ変わるころ、私は初めてお城の外へ出た。
メンデエルのどこか庶民と近い感じのする牧歌的な城の佇まいとは違い、ルーマデュカの城は優雅で美しくはあるけれど、何となく人を寄せ付けない怜悧で孤高の城だった。
城の出口のところに、二頭立ての可愛らしい馬車が用意してあって私は驚く。
「え…城の中を馬車で移動するの?」
私の腰に手を添えてエスコートしながら、ジェルヴェは私を見下ろして微笑む。
「東の端の方にありましてね。
実は、貴女の大叔母上で私の義理の母であるエデルガルト様のお庭だったところを改装したのです。
歩いても行けますが、今日は初日なので、これに乗って行きましょう」
あ…そうなんだ。
正妃の大叔母様にはお子様がいらっしゃらなかったから、今上陛下やジェルヴェたちは王弟殿下の方のお子だったっけ。
私もそうなるんだろうな。
別にいいけど。
ジェルヴェと並んで馬車に乗り込み出発すると、私は広大な城の庭の風景に目を奪われる。
「すごい…綺麗だわ…」
まるで幼いころに見た絵本の挿絵のような、木立に見え隠れする美しい城の様子、足元の叢からたまに顔を出す小さな動物たち、鳥たちが囀り私の乗る馬車のすぐ近くをかすめて飛んで行く。
はしゃぐ私を、ジェルヴェは楽しそうに眺めて「そのように楽しんでいただけるのでしたら、これからはもっと外へ出ましょう。図書室に籠っておられるのがお好きだから、あまり外にはご興味がないのかと思ってました」と言って頭を優しく撫でた。
歩いても行けるというジェルヴェの言葉通り、遠回りしたはずの馬車はすぐに背の低い木々とレンガの壁に囲まれた小さな庭園の前に着いた。
グレーテルとユリアナ、メンデエルの大使のコックとジェルヴェのシェフが待っていた。
庭師かしら…畏まってはいるものの、どことなく着なれない感じのコートに身を包んだおじさんがいる。
蔓薔薇の蔦が絡む可愛らしい扉の向こうには、思ったより広い空間が広がっていた。
私はジェルヴェの手を離して、辺りを見回しながら細い道を辿っていく。
秋だというのに、さまざまな植物が花を咲かせている。
そして、実をつけているものもたくさんあった。
「女性らしい」とジェルヴェが評していた通り、庭を彩る植物やそこここに置いてあるオブジェ、小さな噴水なども可愛らしく丸いフォルムの、いかにも女性の好みそうなものだった。
これを畑に改装してしまうのも…という気がしないでもなかったけど、女性はやがて主婦になるものだ。
主婦は、まず家族の食卓を調えるのが仕事だ。
その仕事には、畑が欠かせない。
うんうん。その論法で行こう。
庭の奥の方に、ガーリーな四阿が設えてあり、お茶の準備がしてあった。
「リンスター、あまり急ぐとまた転んでしまいますよ」
後ろからついてきたジェルヴェが私の腰に手を回して、ふわっと抱きしめる。
「自然の中ではしゃぐ貴女もたまらなく魅力的だ。
このお姿は、私だけにしか見せてはいけませんよ」
耳元で囁くと、一度ぎゅっと力を込めて私を抱きしめ、ぱっと身体を離す。
「さあ、お茶にしましょう。
歩かれてお疲れでしょう」
私たちは向かい合って座り、グレーテルの給仕でお茶を飲み、お菓子をつまむ。
メンデエルのコックとジェルヴェのシェフ、それから思った通り庭師のおじさんが、予め話し合ってあったらしい庭の改造計画について話してくれるのを聞いた。
「これからの時期に植えるものとしては、玉葱や蚕豆、油菜類、と言ったところでしょうか。
メンデエルよりは気候が穏やかなので、育てることできる野菜は多いと思います」
コックが嬉しそうに言い、私はうなずいた。
「庭師と相談いたしまして、どこにどれを植えるかは決めていこうと思っております」
「そこはお任せするわ。
お願いしますね」
庭師に向かって微笑むと、庭師は「へっ…へえっ!」と変な返事をして畏まり、私とジェルヴェは思わず笑ってしまった。
これから春に向けて楽しみが一つ増えたわ。
私は庭を見回しながら、ワクワクする気持ちを抑えられなかった。
メンデエルのどこか庶民と近い感じのする牧歌的な城の佇まいとは違い、ルーマデュカの城は優雅で美しくはあるけれど、何となく人を寄せ付けない怜悧で孤高の城だった。
城の出口のところに、二頭立ての可愛らしい馬車が用意してあって私は驚く。
「え…城の中を馬車で移動するの?」
私の腰に手を添えてエスコートしながら、ジェルヴェは私を見下ろして微笑む。
「東の端の方にありましてね。
実は、貴女の大叔母上で私の義理の母であるエデルガルト様のお庭だったところを改装したのです。
歩いても行けますが、今日は初日なので、これに乗って行きましょう」
あ…そうなんだ。
正妃の大叔母様にはお子様がいらっしゃらなかったから、今上陛下やジェルヴェたちは王弟殿下の方のお子だったっけ。
私もそうなるんだろうな。
別にいいけど。
ジェルヴェと並んで馬車に乗り込み出発すると、私は広大な城の庭の風景に目を奪われる。
「すごい…綺麗だわ…」
まるで幼いころに見た絵本の挿絵のような、木立に見え隠れする美しい城の様子、足元の叢からたまに顔を出す小さな動物たち、鳥たちが囀り私の乗る馬車のすぐ近くをかすめて飛んで行く。
はしゃぐ私を、ジェルヴェは楽しそうに眺めて「そのように楽しんでいただけるのでしたら、これからはもっと外へ出ましょう。図書室に籠っておられるのがお好きだから、あまり外にはご興味がないのかと思ってました」と言って頭を優しく撫でた。
歩いても行けるというジェルヴェの言葉通り、遠回りしたはずの馬車はすぐに背の低い木々とレンガの壁に囲まれた小さな庭園の前に着いた。
グレーテルとユリアナ、メンデエルの大使のコックとジェルヴェのシェフが待っていた。
庭師かしら…畏まってはいるものの、どことなく着なれない感じのコートに身を包んだおじさんがいる。
蔓薔薇の蔦が絡む可愛らしい扉の向こうには、思ったより広い空間が広がっていた。
私はジェルヴェの手を離して、辺りを見回しながら細い道を辿っていく。
秋だというのに、さまざまな植物が花を咲かせている。
そして、実をつけているものもたくさんあった。
「女性らしい」とジェルヴェが評していた通り、庭を彩る植物やそこここに置いてあるオブジェ、小さな噴水なども可愛らしく丸いフォルムの、いかにも女性の好みそうなものだった。
これを畑に改装してしまうのも…という気がしないでもなかったけど、女性はやがて主婦になるものだ。
主婦は、まず家族の食卓を調えるのが仕事だ。
その仕事には、畑が欠かせない。
うんうん。その論法で行こう。
庭の奥の方に、ガーリーな四阿が設えてあり、お茶の準備がしてあった。
「リンスター、あまり急ぐとまた転んでしまいますよ」
後ろからついてきたジェルヴェが私の腰に手を回して、ふわっと抱きしめる。
「自然の中ではしゃぐ貴女もたまらなく魅力的だ。
このお姿は、私だけにしか見せてはいけませんよ」
耳元で囁くと、一度ぎゅっと力を込めて私を抱きしめ、ぱっと身体を離す。
「さあ、お茶にしましょう。
歩かれてお疲れでしょう」
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メンデエルよりは気候が穏やかなので、育てることできる野菜は多いと思います」
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「庭師と相談いたしまして、どこにどれを植えるかは決めていこうと思っております」
「そこはお任せするわ。
お願いしますね」
庭師に向かって微笑むと、庭師は「へっ…へえっ!」と変な返事をして畏まり、私とジェルヴェは思わず笑ってしまった。
これから春に向けて楽しみが一つ増えたわ。
私は庭を見回しながら、ワクワクする気持ちを抑えられなかった。
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