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第一章 地下大都市トウキョウ
15.大神医師の診察
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「遠夜が昨日、啓司と貴彦を心配して見舞いに来たよ。
僕がたまたま貴彦の病室にいたんで、そこだけで帰したが」
遠夜の名前を聞くと、胸が痛む。
無駄に傷つけてしまった…
「それがさあ、遠夜が女の子と一緒に来たんだよ。
技術の制服ユニフォームの娘だったな。
可愛い子だったよ~」
わははと笑う。
啓司は話の内容にとても驚いたが、何と答えていいか判らずに黙っていると、大神医師はごほんと咳払いして話し出した。
「…昨日聞いた話から推察するに、君は自己肯定感が極端に低いんだな。
この都市のように、赤ん坊のころから親と引き離して育てて、しかもすべての人間をランク付けして管理するような場所にいれば、無理もないが。
遠夜や貴彦が君を貶めるようなことを言うはずはないと思うんだけど、どうかな?」
大神医師の言葉に、啓司はうなずいた。
「はい。遠夜と貴彦は、俺を認めてくれていると思います。
でも…それも俺には苦しいのです。
俺はαクラスでもぶっちぎりの頂点にいる遠夜や貴彦に認めてもらえる人間じゃない。
日常のちょっとしたことで、遠夜や貴彦には遠く及ばないことを思い知らされる。
実は蔑まれているのではないかと勘繰ってしまう」
「でも俺は認められたい。
遠夜や貴彦と肩を並べられる人間になりたい」
最後は涙声になって、思いを吐露する啓司を大神医師は黙って見つめている。
「俺は遠夜に甘えているんだと思います。
世話を焼くことで、遠夜に俺がいないと何もできないと思い込ませているのかも。
遠夜に頼りにされたい。
だけど本当は遠夜に依存しているのは俺の方なのかもしれないです」
ぽとりと涙が落ちる。
「自己分析はできているようだな。
さすがだね。
次のステップは少しずつでいいから、その思いを自分自身で肯定していくことだ。
今まで、そこまで強い劣等感を精神感応力のずば抜けてる貴彦にさえ隠し通してきた克己心には恐れ入るが、やっぱり今回のようにいつかは無理が来る」
「君は、そりゃランク的には遠夜や貴彦には敵わないが…
君の持つマネジメント能力、仕事に対する執念と言ってもいいほどの責任感、上層部からの篤い信頼、どれもあの二人にはないものだ。
ランク付けされる能力だけが素晴らしいわけじゃない。
ここではそう錯覚させられがちだけどな」
そこで言葉を切って、大神医師は微笑んだ。
「もっと自分で自分を認めてやれ。
それは慢心とは言わない。
ラクになって良いんだよ」
そうなんだろうか…啓司は涙を手の甲で拭う。
対等な友達…仲間だと思っていいんだろうか。
「辛くなったら、話しにおいで。
何でも聞いてやる」
大神医師は啓司の頭をポンポンと叩いて、優しい声で話しかけた。
「…はい」
啓司は頷いて、また涙を拭った。
「できれば、遠夜と昨日の女の子のことをちょっと調べてくれないかなあ。
僕もうめちゃくちゃ気になっちゃって。
貴彦はこういうこと訊いても躱すのが上手すぎてさあ。
あいつと話してると自分が阿呆に思えてくる」
大神医師はそわそわと立ったり座ったりしている。
よほど気になるのだろう。
「判ります」
啓司も笑って答える。
「承知しました。
探りを入れてみます」
と請け合った。
「よし、じゃあそれ全部食べたら、帰っていいぞ。
ただし、仕事は今日まで休み」
「あ…さっきフォークを床に落としちゃって」
「なんだそうか。
ちょっと待て」
大神医師は首に引っかけていたインカムのマイクに何事か囁いた。
すぐに『失礼します』と先ほどのヒューマノイドがフォークを持って入ってきた。
啓司は大神医師の前で完食し、遠夜と女の子の件を念押しされて住居地区へ戻った。
僕がたまたま貴彦の病室にいたんで、そこだけで帰したが」
遠夜の名前を聞くと、胸が痛む。
無駄に傷つけてしまった…
「それがさあ、遠夜が女の子と一緒に来たんだよ。
技術の制服ユニフォームの娘だったな。
可愛い子だったよ~」
わははと笑う。
啓司は話の内容にとても驚いたが、何と答えていいか判らずに黙っていると、大神医師はごほんと咳払いして話し出した。
「…昨日聞いた話から推察するに、君は自己肯定感が極端に低いんだな。
この都市のように、赤ん坊のころから親と引き離して育てて、しかもすべての人間をランク付けして管理するような場所にいれば、無理もないが。
遠夜や貴彦が君を貶めるようなことを言うはずはないと思うんだけど、どうかな?」
大神医師の言葉に、啓司はうなずいた。
「はい。遠夜と貴彦は、俺を認めてくれていると思います。
でも…それも俺には苦しいのです。
俺はαクラスでもぶっちぎりの頂点にいる遠夜や貴彦に認めてもらえる人間じゃない。
日常のちょっとしたことで、遠夜や貴彦には遠く及ばないことを思い知らされる。
実は蔑まれているのではないかと勘繰ってしまう」
「でも俺は認められたい。
遠夜や貴彦と肩を並べられる人間になりたい」
最後は涙声になって、思いを吐露する啓司を大神医師は黙って見つめている。
「俺は遠夜に甘えているんだと思います。
世話を焼くことで、遠夜に俺がいないと何もできないと思い込ませているのかも。
遠夜に頼りにされたい。
だけど本当は遠夜に依存しているのは俺の方なのかもしれないです」
ぽとりと涙が落ちる。
「自己分析はできているようだな。
さすがだね。
次のステップは少しずつでいいから、その思いを自分自身で肯定していくことだ。
今まで、そこまで強い劣等感を精神感応力のずば抜けてる貴彦にさえ隠し通してきた克己心には恐れ入るが、やっぱり今回のようにいつかは無理が来る」
「君は、そりゃランク的には遠夜や貴彦には敵わないが…
君の持つマネジメント能力、仕事に対する執念と言ってもいいほどの責任感、上層部からの篤い信頼、どれもあの二人にはないものだ。
ランク付けされる能力だけが素晴らしいわけじゃない。
ここではそう錯覚させられがちだけどな」
そこで言葉を切って、大神医師は微笑んだ。
「もっと自分で自分を認めてやれ。
それは慢心とは言わない。
ラクになって良いんだよ」
そうなんだろうか…啓司は涙を手の甲で拭う。
対等な友達…仲間だと思っていいんだろうか。
「辛くなったら、話しにおいで。
何でも聞いてやる」
大神医師は啓司の頭をポンポンと叩いて、優しい声で話しかけた。
「…はい」
啓司は頷いて、また涙を拭った。
「できれば、遠夜と昨日の女の子のことをちょっと調べてくれないかなあ。
僕もうめちゃくちゃ気になっちゃって。
貴彦はこういうこと訊いても躱すのが上手すぎてさあ。
あいつと話してると自分が阿呆に思えてくる」
大神医師はそわそわと立ったり座ったりしている。
よほど気になるのだろう。
「判ります」
啓司も笑って答える。
「承知しました。
探りを入れてみます」
と請け合った。
「よし、じゃあそれ全部食べたら、帰っていいぞ。
ただし、仕事は今日まで休み」
「あ…さっきフォークを床に落としちゃって」
「なんだそうか。
ちょっと待て」
大神医師は首に引っかけていたインカムのマイクに何事か囁いた。
すぐに『失礼します』と先ほどのヒューマノイドがフォークを持って入ってきた。
啓司は大神医師の前で完食し、遠夜と女の子の件を念押しされて住居地区へ戻った。
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