7 / 307
第一章 何処へ?
7.居場所確保
しおりを挟む
しばらく互いを見つめあっていたが、ちょっと戸惑ったように左近衛中将様はあたしの手を離した。
懐紙を取り出して涙を上品に拭き、あたしの手に落ちた涙もそっと拭ってくれる。
「伊都子姫…まだお加減が相当、悪しいのでしょうか…」
「え?」
まあ、良くはないけどさ。熱っぽいし。
左近衛中将様は困惑したような恥ずかしそうな顔で言葉を続ける。
「いつものように…その、御手を払いのけられたり、如何にもお厭そうに御顔を背けられたり…なさらないのかと…」
伊都子っさんっ!
あなたいつもそんなことしてたの?!
あたしは驚いて首を横に振った。
左近衛中将様はせっかく拭いた涙を、また零す。
だから、な・き・す・ぎ!
「お可哀相に…一日もお早く元の伊都子様にお戻りになられるよう、御仏にお願いしなければ」
懐紙を出すことも忘れて、手で涙を拭ってしまっている。
この人、Mでしょ。
しかもドがつくMでしょ。
あたしは確信した。
まあでも…伊都子姫のことが本当に好きなんだなあ。
ごめんね、中身が変わっちゃってるんだよ。
内侍さんが助け舟を出してくれる。
「お姫様は、御息が一度止まられて、死の淵をご覧あそばしたそうでございます。
その時に御仏のお慈悲に触れられて、お変わりあそばしたのでは」
驚いたように左近衛中将様があたしを見る。
あたしは疲れたように目を閉じた(演技だよ)。
「あの世とこの世の間にいて…御仏の尊い御姿を拝見したように思いますの。
御仏が私を押して、この世にお戻しくださって…私はここへ来たんです」
なんか言い慣れない言葉ばっかしで舌が回らない。
押したのは御仏じゃなくて伊都子様だけど、まあ、嘘ではないよ。
「ですから私、ここでまた生きていこうと思いますけど、病のせいかぼんやりすることも多くて。
御仏のお姿を拝見した私は、以前の私とは少し違うかもしれません」
これで何とか騙されてくれっ!
祈るような気持ちで目を開けると、その場にいる皆がほろほろと泣いていた。
もう何なの。
涙腺壊れてるの。
左近衛中将様はまたあたしの手を取って、自分の頬に押しあてた。
まあ、つるつるすべすべなほっぺ。
お手入れが行き届いてるわぁ。
「判りました。有り難い御仏のご尊容をご覧になったのなら、さもありなん。
伊都子姫を想う、私の気持ちは未来永劫変わりませんよ」
そこにいる皆も、泣き泣き頷いている。
ビバ!御仏!
あたしは踊りだしたい気持ちを抑えるのが大変だった。
これで何とか、変な言動をしても追い出されることはなさそう。
そこへ、簾の外から遠慮がちに声がかかった。
「薬師がお薬湯を届けに参りまして、北の方様が煎じられたのでお持ちいたしました。
あと、お食事も北の方様からお姫様にお届け申し上げるように、と…」
あー、食事!
さっきからお腹空いてきてたんだよね。
食べたい!
懐紙を取り出して涙を上品に拭き、あたしの手に落ちた涙もそっと拭ってくれる。
「伊都子姫…まだお加減が相当、悪しいのでしょうか…」
「え?」
まあ、良くはないけどさ。熱っぽいし。
左近衛中将様は困惑したような恥ずかしそうな顔で言葉を続ける。
「いつものように…その、御手を払いのけられたり、如何にもお厭そうに御顔を背けられたり…なさらないのかと…」
伊都子っさんっ!
あなたいつもそんなことしてたの?!
あたしは驚いて首を横に振った。
左近衛中将様はせっかく拭いた涙を、また零す。
だから、な・き・す・ぎ!
「お可哀相に…一日もお早く元の伊都子様にお戻りになられるよう、御仏にお願いしなければ」
懐紙を出すことも忘れて、手で涙を拭ってしまっている。
この人、Mでしょ。
しかもドがつくMでしょ。
あたしは確信した。
まあでも…伊都子姫のことが本当に好きなんだなあ。
ごめんね、中身が変わっちゃってるんだよ。
内侍さんが助け舟を出してくれる。
「お姫様は、御息が一度止まられて、死の淵をご覧あそばしたそうでございます。
その時に御仏のお慈悲に触れられて、お変わりあそばしたのでは」
驚いたように左近衛中将様があたしを見る。
あたしは疲れたように目を閉じた(演技だよ)。
「あの世とこの世の間にいて…御仏の尊い御姿を拝見したように思いますの。
御仏が私を押して、この世にお戻しくださって…私はここへ来たんです」
なんか言い慣れない言葉ばっかしで舌が回らない。
押したのは御仏じゃなくて伊都子様だけど、まあ、嘘ではないよ。
「ですから私、ここでまた生きていこうと思いますけど、病のせいかぼんやりすることも多くて。
御仏のお姿を拝見した私は、以前の私とは少し違うかもしれません」
これで何とか騙されてくれっ!
祈るような気持ちで目を開けると、その場にいる皆がほろほろと泣いていた。
もう何なの。
涙腺壊れてるの。
左近衛中将様はまたあたしの手を取って、自分の頬に押しあてた。
まあ、つるつるすべすべなほっぺ。
お手入れが行き届いてるわぁ。
「判りました。有り難い御仏のご尊容をご覧になったのなら、さもありなん。
伊都子姫を想う、私の気持ちは未来永劫変わりませんよ」
そこにいる皆も、泣き泣き頷いている。
ビバ!御仏!
あたしは踊りだしたい気持ちを抑えるのが大変だった。
これで何とか、変な言動をしても追い出されることはなさそう。
そこへ、簾の外から遠慮がちに声がかかった。
「薬師がお薬湯を届けに参りまして、北の方様が煎じられたのでお持ちいたしました。
あと、お食事も北の方様からお姫様にお届け申し上げるように、と…」
あー、食事!
さっきからお腹空いてきてたんだよね。
食べたい!
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる