三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第一章 何処へ?

6.左近衛中将様

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 にわかに部屋の中が慌ただしくなり、多くの女性が出入りして部屋を整えているようだ。
 式部しきぶさんと内侍ないしさんは平伏して、式部さんが言う。
 「伊都子様、わたくしども少し席をお外し申し上げます。
 すぐに戻ってまいります」
 急いで出て行ってしまった。

 えーっ!待ってぇ!置いてかないでっ
 左近衛中将って誰だよ~
 いいなずけって何なのよ~

 あたしの心の叫びも虚しく、誰かが部屋に入ってきた。
 簾の外、あたしが寝ているベッド(ではないんだろうなぁ。でもちょっと高さがあるのよ)がある、小さく仕切られた寝室の前に座った。

 簾越しでよく見えないけど…若そうな男の人。
 彼の方からいい香りが漂ってくる。
 
 「伊都子姫…今朝、早馬が来てあなたが危篤だと聞いたときには…私は宮中で倒れそうになりました。
 主上も非常にご心痛のご様子であらせられて、何度かこっそり涙を拭われて居られたのですよ。
 本当に良かった…助かって…」
 懐紙を取り出し涙を拭いている様子。
 
 よく泣くなあ皆。
 まあ、死にそうになったんだから、そういう反応もあるのかな。
 …とその時は思ったんだけど、後から全然違うと気づくことになる。

 「姫…そちらへ行っても宜しいですか」
 おずおず、といった感じで尋ねてくる。

 この男の人は誰だろう。
 ここに入ってきちゃっても良い関係の人なのか?
 どうしよう、なんて返事すればいい?
 
 「左近衛中将様、お姫様は大変お疲れのご様子で…」
 いつの間にか式部さんがあたしの横に来て、紅筆でさっとあたしの頬に紅を刷いた。
 失礼いたします、と小さく呟いて、眉を描き、唇に紅を差す。

 「そうですか…」ものすごく残念そうな左近衛中将様の声。
 あたしは何だか可哀相になって、式部さんを見る。
 
 髪や化粧を整え、綺麗になった式部さんは、あたしを見て微笑した。
 承知しておりますよ、といったように。
 「ですが、お姫様も左近衛中将様にお目にかかりたいと仰せでございます。
 まだお熱がおありですので、さほど長くは無理かと存じますが…」

 言葉が終わらないうちに簾を巻き上げて、烏帽子を被り美しい直衣を着て太刀を刷いた男の人が入ってきた。
 あたしの周りにいた侍女の人たちがきゃっと言って、顔を袖で隠しながらそそくさと寝室を出て行く。
 
 「伊都子姫…」
 左近衛中将様はあたしの手を取って、はらはらと落涙。
 
 泣きすぎだよあなた…
 あたしは呆れて、左近衛中将様を見上げた。
 涙に濡れた瞳であたしを見つめる左近衛中将様をみて、あたしは何故かドキッとした。
 
 意外にイケメン…
 っていうか、現代風の顔。
 顎が割とほっそりしていて、目が大きく鼻が高くて口も大きめ。
 肌の色も少し浅黒い。
 平安時代ではあまり評価が高くない顔貌かもしれないなぁ。
 
 この人は誰?
 あたしというか、伊都子姫の何?
 
 きーにーなーるー!!
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