三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第一章 何処へ?

9.初ディナー

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 内侍さんと式部さんは顔を見合わせ、そこに同じ驚きを見て取ったらしい。
 二人してあたしの方を見て、恐る恐る訊いてくる。
 
 「…宜しいのですか?
 いつも、殿方の前でぶなど死んでも嫌だと仰せでしたのに。
 左近衛中将様と小さなお菓子を召し上がるだけでも、お帰りあそばした後それはそれは凄まじいほどのお怒りで…」

 伊都子さん…
 あたしは脱力する。

 あたしはため息を押し殺しつつ、二人に言った。
 「御仏の有り難いお力のおかげなのかしら…それとも病のせいかしら…
 あまりそういうことが気にならなくなったの」

 左近衛中将様は、浅黒く精悍なお顔の満面に喜色を浮かべている。
 判りやすい人だなあ。
 でも、良い人そう。

 「左様でございますか…
 それではお食事をお持ちいたします」
 まだ不得要領といった表情で、内侍さんは猫脚のついたお膳を運んできてあたしの前に据えた。

 豪奢なお膳に朱塗りのお椀や小鉢が6つ並んでいる。
 えーっこの時代のご飯って、結構豪華!
 式部さんが蓋を取ってくれるのを待っていそいそと箸を取った。

 刻んだ菜っ葉が載ったお粥。
 蒸した鮎。
 雉のお吸い物。
 山芋のすり下ろしたもの。
 干し鮑を戻して茹でたもの。
 
 式部さんはお料理の説明をしてくれて、最後に小さな器に入った白い塊を指して「これは、と申します。非常に栄養価が高く、病み上がりのお姫様に特別に北の方様が」と言った。

 全体的に柔らかく食べやすく調理してあって、病人食なんだろうなと思った。
 北の方様のお心遣いが判る。
 
 だけど醤油とかがないみたいで、全部塩味。のみ。
 食材は豊富でも、調味料がないんじゃなあ…
 美味しさも半減ってものよ。

 しかし、じっと見つめられながら摂る食事も、喉が詰まりそうになるわ。
 「左近衛中将様にも…」
 と言いかけると
 「只今、準備が整いましてございます」
 式部さんが左近衛中将様の前にもお膳を置いた。

 「伊都子姫様と同じものでございますが…」
 と恐縮する。
 左近衛中将様は、ほんっとーに嬉しそうに「構いません。むしろ、姫と同じものを食べられるなんて…」とまた泣いた。

 「蘇」というのは、簡単に言えばチーズだった。
 乳製品は貴重品だったんだなあ…

 「蘇は、私も子供のころに重病になった時、一度だけ食べたことがあります。
 なんというか、独特のまろやかさと風味がありますね」
 楽しそうに左近衛中将様が言う。

 二人とも全部平らげ、お薬湯は式部さんと内侍さんを押し切って、なんと左近衛中将様が手ずから飲ませてくれた。
 にがーい!と顔をしかめるあたしに「ご褒美のお菓子ですよ」と小さくて甘い蒸し饅頭を口に入れてくれた。

 「それでは、伊都子姫。
 また明日に参りますね。
 今宵は私は宿直とのいですので、宮中へ戻って主上に姫のご回復をご報告申し上げます。
 お喜びになられると思いますよ」
 
 毒気を抜かれ呆気にとられたような女房さんたちに、爽やかに丁寧に挨拶をして帰っていった。
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