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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
2.闖入者と暴露
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翌朝早く(って言っても、時計がないからよく判らないんだけど…)、あたしは大勢の人がバタバタと走り回る音と何かを叫ぶ声で目を覚ました。
なになに??
重い髪に苦労しながら起き上がると、御帳台の中には誰もいなかった。
声は近くなったり遠くなったりしながらまだ続いている。
男の人女の人、子供の声も混ざっているようだ。
「虫」とか「火事」とかいう単語が切れ切れに聞こえてくる。
「虫」?
あたしは何だか嫌な予感がした。
その時、御帳台の外に誰かが潜んでいるような気配がした。
「誰っ?!」
あたしは大声で誰何する。
「しっ!おはようございます姉君」
小声で言いながら御簾を巻き上げ、滑るように入ってきたのは…
義光君!
「この騒ぎはあんたのせい?!
何してんのよ朝っぱらから!」
あたしも思わず声を潜め、思い切りド庶民言葉で糺すと、義光君は一瞬驚いたように目を見張り、それからニヤリと笑った。
「やっぱりなあ…あなたは姉君じゃない。
見た目はともかく、中身は別人だ。
姉君がそんな婢女のような下賤な言葉をご存知の訳がない」
やばっ!!
あたしは両手で口を覆った。
バレた…
義光君はあたしの両手首をつかんで顔から離すと、意地悪く笑ったままあたしの耳に顔を近づけて囁く。
「ご心配なく、姉君。
誰にも喋ったりしませんよ。
だいたい、誰がこんな突拍子もない話を信じますか?
伊都子姫は一度死んで生き返ったら、中身だけ別人になってましたって?」
「そんなことを言ったら、私の方が狂人扱いですよ。
入内の話さえあった、右大臣の大事な大事な、美人で評判の姫君を愚弄するかってね」
くすくすと笑い、手を離そうともがくあたしを見つめる。
「以前の姉君は、いつも眉間にしわを寄せて口をへの字に曲げていて、にこりともせず不機嫌そうで、口を開けば毒のような罵詈雑言。
顔の造作は美人かもしれないが、そりゃもう可愛げのない女人だった」
「今は、本当に綺麗だ。
私は昨日、からかおうと思ってここに入って、あなたに見惚《みと》れてしまった。
嘘偽りなく、心から、惚れてしまいました」
あたしは驚いて、動きを止めて義光君を見た。
腕をつかまれたまま見つめ合う。
あ、、、色素の薄い、綺麗な瞳。
義光君は照れたように目を伏せる。
「このことは、私と姉君だけの秘密ですよ」
そう言うが早いか、あたしの唇に素早くキスした。
「口止め料、いただきました」
手を離すと、呆然としているあたしを見て「じゃまたね、姉君」と言って音もたてずに御帳台から出て行った。
バタバタと足音が近づいてくる。
「姫様!今ここに誰かが…」
式部さんが大声で言いながら入ってきた。
「いいえ…誰もいないわよ」
あたしは、急に早鐘のように打ちだした胸を押さえて、なんでもないように装って言った。
バレた、ことも勿論、大変なことだけど…
ファーストキス!
あんな奴にっ!
そう思いながらも、義光君の唇の感触を思い出して赤くなってしまう。
どうしよう…
左近衛中将様…
なになに??
重い髪に苦労しながら起き上がると、御帳台の中には誰もいなかった。
声は近くなったり遠くなったりしながらまだ続いている。
男の人女の人、子供の声も混ざっているようだ。
「虫」とか「火事」とかいう単語が切れ切れに聞こえてくる。
「虫」?
あたしは何だか嫌な予感がした。
その時、御帳台の外に誰かが潜んでいるような気配がした。
「誰っ?!」
あたしは大声で誰何する。
「しっ!おはようございます姉君」
小声で言いながら御簾を巻き上げ、滑るように入ってきたのは…
義光君!
「この騒ぎはあんたのせい?!
何してんのよ朝っぱらから!」
あたしも思わず声を潜め、思い切りド庶民言葉で糺すと、義光君は一瞬驚いたように目を見張り、それからニヤリと笑った。
「やっぱりなあ…あなたは姉君じゃない。
見た目はともかく、中身は別人だ。
姉君がそんな婢女のような下賤な言葉をご存知の訳がない」
やばっ!!
あたしは両手で口を覆った。
バレた…
義光君はあたしの両手首をつかんで顔から離すと、意地悪く笑ったままあたしの耳に顔を近づけて囁く。
「ご心配なく、姉君。
誰にも喋ったりしませんよ。
だいたい、誰がこんな突拍子もない話を信じますか?
伊都子姫は一度死んで生き返ったら、中身だけ別人になってましたって?」
「そんなことを言ったら、私の方が狂人扱いですよ。
入内の話さえあった、右大臣の大事な大事な、美人で評判の姫君を愚弄するかってね」
くすくすと笑い、手を離そうともがくあたしを見つめる。
「以前の姉君は、いつも眉間にしわを寄せて口をへの字に曲げていて、にこりともせず不機嫌そうで、口を開けば毒のような罵詈雑言。
顔の造作は美人かもしれないが、そりゃもう可愛げのない女人だった」
「今は、本当に綺麗だ。
私は昨日、からかおうと思ってここに入って、あなたに見惚《みと》れてしまった。
嘘偽りなく、心から、惚れてしまいました」
あたしは驚いて、動きを止めて義光君を見た。
腕をつかまれたまま見つめ合う。
あ、、、色素の薄い、綺麗な瞳。
義光君は照れたように目を伏せる。
「このことは、私と姉君だけの秘密ですよ」
そう言うが早いか、あたしの唇に素早くキスした。
「口止め料、いただきました」
手を離すと、呆然としているあたしを見て「じゃまたね、姉君」と言って音もたてずに御帳台から出て行った。
バタバタと足音が近づいてくる。
「姫様!今ここに誰かが…」
式部さんが大声で言いながら入ってきた。
「いいえ…誰もいないわよ」
あたしは、急に早鐘のように打ちだした胸を押さえて、なんでもないように装って言った。
バレた、ことも勿論、大変なことだけど…
ファーストキス!
あんな奴にっ!
そう思いながらも、義光君の唇の感触を思い出して赤くなってしまう。
どうしよう…
左近衛中将様…
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