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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
12.行動開始
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帰るときに左近衛中将様はあたしの手を取ってさめざめと泣いた。
「明日からも毎日、少しでもお会いしに参りますね。文も毎日お送りいたします。
そうでもないと、私は姫に焦がれ死にしてしまいます。
…会いに来て宜しいですか?」
死にゃあせんだろう…
でもまあ、平安朝のお貴族様は思い込み激しいからな…。
古典の授業で習った物語の中では、死んじゃってもおかしくない感じだった。
そりゃあ、あたしだって寂しいけど。
あんなこと言うんじゃなかったって思ったりするけど。
男女交際をしたことないから、どういうふうに言えば可愛い女の子と思ってもらえるかが判らない。
女房さんたちも皆して袖でそっと涙を拭う中、あたしが素面で頷くと、左近衛中将様は
「姫は冷静でいらっしゃるのですね…。
私の片恋はまだまだ続きそうですね」
と苦笑交じりに帰っていった。
こういう時、王朝文化ではきっと、そめそめと語り合いはらはらと落涙して、互いに別れを惜しみ倒すんだろう。
うーん…あたしにはまだちょっと無理かな。
現代人の感覚が残りすぎてる。
いつか、、、、あたしもここの感覚に染まり切る日が来るのだろうか。
翌日から、あたしはちょっと忙しくなった。
お殿様と北の方様それぞれにお手紙を書いて(同じ屋敷にいるのに、全然会わないんだよ!)、厨房の改装についての了解を取った。
はっきり言って、お二方の反応は、棟梁のそれとあまり変わりなかった。
まあ、伊都子がそんなにやりたいならいいんじゃない、といった程度の承諾だった。
でもとりあえず了承はもらったので、料理長と棟梁にあたしの部屋に来てもらって、具体的な改装について話し合った。
料理長はさすがに、経験則で不衛生と病の相関関係については思い当る部分もあるらしく、改装案をとても喜んでくれた。
「伊都子姫様のお美しいお髪やお着物が、泥や芥に塗れていくのを拝見しておるのは、辛うございました」
とほっとしたように笑った。
とりあえずの打ち合わせが済んで部屋を退がるとき、御簾越しにこっそりと
「あの女の子は元気?」
と訊くと、料理長は優しく微笑んだ。
「大丈夫でございます。
みづも根は悪い女ではございません。
姫様はお優しゅうございますね」
そして
「唐渡りの料理人に知人を介して渡りをつけております。
醤油の作り方を教えてもらったら、早速作ってみます。
出汁の方も、干し魚や干し椎茸の試作を始めました。
できましたら味見をお願い申し上げます」
と目を輝かせて言った。
職人の心意気だなあ。
あたしはその情熱を少し羨ましく思いながら頷いた。
「明日からも毎日、少しでもお会いしに参りますね。文も毎日お送りいたします。
そうでもないと、私は姫に焦がれ死にしてしまいます。
…会いに来て宜しいですか?」
死にゃあせんだろう…
でもまあ、平安朝のお貴族様は思い込み激しいからな…。
古典の授業で習った物語の中では、死んじゃってもおかしくない感じだった。
そりゃあ、あたしだって寂しいけど。
あんなこと言うんじゃなかったって思ったりするけど。
男女交際をしたことないから、どういうふうに言えば可愛い女の子と思ってもらえるかが判らない。
女房さんたちも皆して袖でそっと涙を拭う中、あたしが素面で頷くと、左近衛中将様は
「姫は冷静でいらっしゃるのですね…。
私の片恋はまだまだ続きそうですね」
と苦笑交じりに帰っていった。
こういう時、王朝文化ではきっと、そめそめと語り合いはらはらと落涙して、互いに別れを惜しみ倒すんだろう。
うーん…あたしにはまだちょっと無理かな。
現代人の感覚が残りすぎてる。
いつか、、、、あたしもここの感覚に染まり切る日が来るのだろうか。
翌日から、あたしはちょっと忙しくなった。
お殿様と北の方様それぞれにお手紙を書いて(同じ屋敷にいるのに、全然会わないんだよ!)、厨房の改装についての了解を取った。
はっきり言って、お二方の反応は、棟梁のそれとあまり変わりなかった。
まあ、伊都子がそんなにやりたいならいいんじゃない、といった程度の承諾だった。
でもとりあえず了承はもらったので、料理長と棟梁にあたしの部屋に来てもらって、具体的な改装について話し合った。
料理長はさすがに、経験則で不衛生と病の相関関係については思い当る部分もあるらしく、改装案をとても喜んでくれた。
「伊都子姫様のお美しいお髪やお着物が、泥や芥に塗れていくのを拝見しておるのは、辛うございました」
とほっとしたように笑った。
とりあえずの打ち合わせが済んで部屋を退がるとき、御簾越しにこっそりと
「あの女の子は元気?」
と訊くと、料理長は優しく微笑んだ。
「大丈夫でございます。
みづも根は悪い女ではございません。
姫様はお優しゅうございますね」
そして
「唐渡りの料理人に知人を介して渡りをつけております。
醤油の作り方を教えてもらったら、早速作ってみます。
出汁の方も、干し魚や干し椎茸の試作を始めました。
できましたら味見をお願い申し上げます」
と目を輝かせて言った。
職人の心意気だなあ。
あたしはその情熱を少し羨ましく思いながら頷いた。
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