三日夜の餅はハイティーと共に

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第三章 賀茂祭・露頭の儀

1.左近衛中将様の噂

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 翌日、あたしはお殿様にガッツリ叱られた。
 「まったく…姫が屋敷からいなくなったと宮中へ早馬が報せて来た時には、心の臓が停まるかと思うほど驚いたよ。
 しかも伊靖と一緒だというじゃないか…余計に心配で心配で」

 ああ…伊靖君ってば、父親にも信用ないんだ…
 あたしは俯いて笑いをこらえた。
 「貴女の身に何かあったら、儂は左近衛中将殿にどう責任を取ればよいのだ。
 左近衛中将殿は内大臣の姫君をという噂もあるし…」

 えっ!!
 驚いて顔を上げると、お殿様はずいっと御帳台に近づき、御簾を上げてあたしに指を突き付ける。

 「そなたもいつまでも左近衛中将殿を焦らしてばかりいないで、いい加減に覚悟を決めなさい。
 あの方はこれからどんどん出世なさるよ、宮中じゃ有望株だ。
 誰もが彼に姫君を嫁がせたがっているのだよ。
 妻は伊都子姫ひとりと皆におっしゃって居られるのだが、その理由が伊都子の父親である、儂にも解らん。
 そなたのどこがそんなにお気にられておるのであろうな?」

 しっつれーな父親だな!
 それが娘に言う言葉か?!

 「まあ、ともかく。
 勝手に屋敷を抜け出すような真似は、今後一切禁ずる。
 それから、さっさと左近衛中将殿とコトを済ませてしまいなさい」

 …それも、父親が娘に言う言葉なの?
 あたしは脱力する。

 お殿様は言うだけ言うと、蝙蝠かわほりをパチパチと鳴らしながら部屋を出て行った。
 あたしは、女房さん達に左近衛中将様と内大臣の姫君の噂の話を聞いてみたが、誰も良く知らなかった。

 知らないふりをしてくれたのかもしれない。
 あたしの気持ちをおもんぱかって。

 午過ぎに左近衛中将様から手紙が来た。
 
 『今日は、音曲の宴が宮中で催され、私も笛の奏者として駆り出されました。
 今宵も伺えません。
 すみません』

 あたしは、自分で思っている以上にショックを受けていることに気づいた。
 手紙を抱きしめて、こらえても零れてしまう涙を、懸命に拭う。

 式部さんが心配そうに「姫様、どうなさいました?左近衛中将様は何と…」と声をかけてくれる。
 あたしは黙って、手紙を差し出す。
 式部さんは手紙を読み「まあ…左近衛中将様が笛の奏者だとは存じませんでした」とぽつりと言った。
 
 「姫様、お泣きあそばすことはありませんわ。
 葵祭の最中でございますから、左近衛中将様もいろいろとお忙しいのでしょう。
 明日にはきっとまた、にこにこしながらいらっしゃってくださいますわ」

 あたしは涙を拭いながら頷いた。
 そうじゃないかもしれないけど、式部さんの気持ちが嬉しいから、そういうことにしておこう。
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