56 / 307
第三章 賀茂祭・露頭の儀
2.伊靖君の部屋で
しおりを挟む
伊靖君付きの女房、少輔さんが午後に宿下がりから屋敷に戻ったと聞いて、あたしは昨日のお礼を言いに行った。
旅装束を解いて撫子色の十二単を着た少輔さんは、花のように可憐だった。
「伊都子姫様、無事にお帰りあそばして、ほんにようございました」
にっこり笑って両手をついた。
「貴女こそ、わたくしのために宿下がりの機会を無駄に遣わせてしまって、ごめんなさいね。
おかげさまで左近衛中将様の雄姿が拝見できましたわ」
思い出すと泣きそうになりながらも、あたしも一生懸命ににっこりする。
「それは何よりでございました。
お手伝い申し上げることができて、わたくしも楽しゅうございました」
ふふっと笑う。
か、…かあいっ♡
そこへドタドタと足音がして、外の廊下から誰かが入ってきた。
「おーい、伊靖!いるかー?
今日の音曲の催しだけどさ…」
不躾に声をかけながら入ってきたのは…
義光君!
あたしは咄嗟に扇で顔を隠す。
おーっ、あたしったらだいぶ平安人の素養が身についてきたんじゃない?
「あれっ、伊靖は?」
と言って部屋の中を見回す。
「まだ、お戻りではございませんが…」
少輔さんが言いかける。
「えー?私より先に退出したのになあ」
と少輔さんの方を向き、傍にいるあたしに気づいた。
「あれー?月子姫じゃないですか!
なんで伊靖の部屋に?
もしかして、私が現れるのを待っててくださった?」
そんなわきゃねーだろ!
っていうか、月子姫はやめろ!
案の定、少輔さんは「月子姫?」と訝しそうに呟いている。
義光君は「それはね、少輔。私と月子姫だけの秘密なんだよ」とか楽しそうに宣う。
そういう物言いは鳥肌立つからやめてホント。
あたしは音を立てて扇子を閉じる。
あ、…そうだ。
伊靖君がいたら訊いてみようかと思ったんだけど…義光君でもいいか。
「義光君、ちょっと訊いてもいいかしら」
あたしが話しかけると、義光君は嬉しそうに「何でしょう、月子姫」と言ってあたしの目の前に座った。
「あの、…左近衛中将様に、内大臣の姫君との婚姻の噂があるって本当?」
あたしは思い切って尋ねた。
少輔さんが驚いたようにあたしを見ているのが判る。
「ああ…」
義光君は手に持っていた扇子を開いて、また閉じた。
「本当ですよ。
まあ、内大臣殿がそうおっしゃって居られるだけで、左大臣殿がどう思召して居られるのかは判りませんけど」
あたしは目の前が暗くなったような気がした。
少輔さんが「姫様、大丈夫でございますか?」と心配そうに言う。
あたしは「大丈夫よ」と笑ってみせた。
旅装束を解いて撫子色の十二単を着た少輔さんは、花のように可憐だった。
「伊都子姫様、無事にお帰りあそばして、ほんにようございました」
にっこり笑って両手をついた。
「貴女こそ、わたくしのために宿下がりの機会を無駄に遣わせてしまって、ごめんなさいね。
おかげさまで左近衛中将様の雄姿が拝見できましたわ」
思い出すと泣きそうになりながらも、あたしも一生懸命ににっこりする。
「それは何よりでございました。
お手伝い申し上げることができて、わたくしも楽しゅうございました」
ふふっと笑う。
か、…かあいっ♡
そこへドタドタと足音がして、外の廊下から誰かが入ってきた。
「おーい、伊靖!いるかー?
今日の音曲の催しだけどさ…」
不躾に声をかけながら入ってきたのは…
義光君!
あたしは咄嗟に扇で顔を隠す。
おーっ、あたしったらだいぶ平安人の素養が身についてきたんじゃない?
「あれっ、伊靖は?」
と言って部屋の中を見回す。
「まだ、お戻りではございませんが…」
少輔さんが言いかける。
「えー?私より先に退出したのになあ」
と少輔さんの方を向き、傍にいるあたしに気づいた。
「あれー?月子姫じゃないですか!
なんで伊靖の部屋に?
もしかして、私が現れるのを待っててくださった?」
そんなわきゃねーだろ!
っていうか、月子姫はやめろ!
案の定、少輔さんは「月子姫?」と訝しそうに呟いている。
義光君は「それはね、少輔。私と月子姫だけの秘密なんだよ」とか楽しそうに宣う。
そういう物言いは鳥肌立つからやめてホント。
あたしは音を立てて扇子を閉じる。
あ、…そうだ。
伊靖君がいたら訊いてみようかと思ったんだけど…義光君でもいいか。
「義光君、ちょっと訊いてもいいかしら」
あたしが話しかけると、義光君は嬉しそうに「何でしょう、月子姫」と言ってあたしの目の前に座った。
「あの、…左近衛中将様に、内大臣の姫君との婚姻の噂があるって本当?」
あたしは思い切って尋ねた。
少輔さんが驚いたようにあたしを見ているのが判る。
「ああ…」
義光君は手に持っていた扇子を開いて、また閉じた。
「本当ですよ。
まあ、内大臣殿がそうおっしゃって居られるだけで、左大臣殿がどう思召して居られるのかは判りませんけど」
あたしは目の前が暗くなったような気がした。
少輔さんが「姫様、大丈夫でございますか?」と心配そうに言う。
あたしは「大丈夫よ」と笑ってみせた。
2
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる