三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第三章 賀茂祭・露頭の儀

2.伊靖君の部屋で

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 伊靖君付きの女房、少輔さんが午後に宿下がりから屋敷に戻ったと聞いて、あたしは昨日のお礼を言いに行った。
 旅装束を解いて撫子色の十二単を着た少輔さんは、花のように可憐だった。
 「伊都子姫様、無事にお帰りあそばして、ほんにようございました」
 にっこり笑って両手をついた。
 
 「貴女こそ、わたくしのために宿下がりの機会を無駄に遣わせてしまって、ごめんなさいね。
 おかげさまで左近衛中将様の雄姿が拝見できましたわ」
 思い出すと泣きそうになりながらも、あたしも一生懸命ににっこりする。

 「それは何よりでございました。
 お手伝い申し上げることができて、わたくしも楽しゅうございました」
 ふふっと笑う。
 か、…かあいっ♡

 そこへドタドタと足音がして、外の廊下から誰かが入ってきた。
 「おーい、伊靖!いるかー?
 今日の音曲の催しだけどさ…」
 不躾に声をかけながら入ってきたのは…
 
 義光君!

 あたしは咄嗟に扇で顔を隠す。
 おーっ、あたしったらだいぶ平安人の素養が身についてきたんじゃない?

 「あれっ、伊靖は?」
 と言って部屋の中を見回す。
 
 「まだ、お戻りではございませんが…」
 少輔さんが言いかける。
 「えー?私より先に退出したのになあ」
 と少輔さんの方を向き、傍にいるあたしに気づいた。

 「あれー?月子姫じゃないですか!
 なんで伊靖の部屋に?
 もしかして、私が現れるのを待っててくださった?」

 そんなわきゃねーだろ!
 っていうか、月子姫はやめろ!
 
 案の定、少輔さんは「月子姫?」と訝しそうに呟いている。
 義光君は「それはね、少輔。私と月子姫だけの秘密なんだよ」とか楽しそうにのたまう。
 そういう物言いは鳥肌立つからやめてホント。
 あたしは音を立てて扇子を閉じる。

 あ、…そうだ。
 伊靖君がいたら訊いてみようかと思ったんだけど…義光君でもいいか。

 「義光君、ちょっと訊いてもいいかしら」
 あたしが話しかけると、義光君は嬉しそうに「何でしょう、月子姫」と言ってあたしの目の前に座った。

 「あの、…左近衛中将様に、内大臣の姫君との婚姻の噂があるって本当?」
 あたしは思い切って尋ねた。
 少輔さんが驚いたようにあたしを見ているのが判る。

 「ああ…」
 義光君は手に持っていた扇子を開いて、また閉じた。
 「本当ですよ。
 まあ、内大臣殿がそうおっしゃって居られるだけで、左大臣殿がどう思召おぼしめして居られるのかは判りませんけど」

 あたしは目の前が暗くなったような気がした。
 少輔さんが「姫様、大丈夫でございますか?」と心配そうに言う。
 あたしは「大丈夫よ」と笑ってみせた。
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