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第三章 賀茂祭・露頭の儀
3.義光君の話
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「新左大臣殿は新太政大臣殿のご威光で、今や飛ぶ鳥を落とす矢の勢いですよ。
新左大臣殿ご自身は、そう大したご出自ではないが新太政大臣殿の縁戚であられるし。
その左大臣殿の三男であられる左近衛中将様だって、放っとかれるわけがない。
まだ北の方もいらっしゃらないし」
「今まで見向きもしていなかった輩が左近衛中将様に群がっていますよ。
今度の秋の除目ではどれほど位を上げられるか、秘かに賭けの対象になっているくらいです。
左大臣殿も相当のやり手ですから…
左近衛中将様の姉君は入内して居られて、更衣でいらっしゃったのが、今度女御にお成りあそばすとか」
「そして、妹君は東宮に嫁いで居られるし。
政局がこれからどうなっても、失敗しないようになっている」
閉じたままの扇を口に当て、くすくすと笑う。
「だから、…月子姫は、左近衛中将様など放っといて、私の北の方になられれば良いのです。
私だって今は民部大輔だが、これからどんどん地位を上げていきますよ」
あたしににじり寄り、手を取る。
「年下はイヤ」
あたしが今の義光君の話に気を取られて上の空で答えると、義光君はムッとしたように言う。
「年下って言ったって!
一つしか違わないじゃないですか!
弟の伊靖とも仲が良いし、姉君の幼いころだって知っている」
月子姫の生い立ちは知らないが…と呟く。
「こらっ!義光っ!
人の姉を勝手に口説くな!」
伊靖君が外廊下から御簾を巻き上げて入ってくる。
「少輔、戻ったか。
ご苦労だったね」
まず少輔さんをねぎらい、あたしの手を握っている義光君の手をぴしゃりと叩いた。
「まったく、油断も隙も無いやつ。
烏丸小路の女にも、北の方をちらつかせていただろう」
「あっ、あれはっ!
あの女から言ってきたんだよ!」
伊靖君の言葉に、義光君は慌てて弁解する。
「そ、それより、お前遅かったな。
どこぞの女人のところへ寄ってきたのか?」
「違うよ…
左京亮に捕まってたんだ」
伊靖君ははぁーっと大きなため息をついた。
「左京亮?」
あたしと義光君が同時に問う。
「昨日、糺の森で会った方?」
あたしが訊き、伊靖君はげんなりしたように頷く。
あたしが言うのもなんだけど、なんだか下品な口調の人だった。
「昨日?糺の森?!」
驚いたように義光君があたしと伊靖君の顔を交互に見る。
「昨日お忍びで姉上と二人で左近衛中将様の流鏑馬を観に行ったんだ。
そこで左京亮に会っちゃって。
咄嗟に『叔母上だ』って誤魔化してその場は離れたんだけど」
「その後、姉上が流鏑馬を終えたばかりの左近衛中将様の御馬に乗せられて遁走するという椿事が出来してねぇ…
その場は結構な騒ぎになったんだよ。
それを見ていた左京亮が、今日『あれは叔母なんかじゃない、姉だろう』と。
『石の姫と噂される方が、あんなに美人とは知らなかった、ぜひ紹介しろ』ってうるさくて」
あらら…あたしは赤くなってしまった。
昨日、騒ぎになっちゃったんだ。
そりゃそうだよね、神事が終わってないのに射手が居なくなっちゃったら…
左近衛中将様、本当にごめんなさい。
「やっと左京亮から解放されたかと思ったら、今度はなんと、主上からのお召があってさぁ…
桟敷席からあの騒ぎをご覧あそばしていたらしい。
あれは何だったのかと」
えーっ!
あたしは思わずのけぞる。
「そ、それは…そこにいたのが伊都子姫だと…
主上や他の方に知られたってこと?」
「その前から、父上のところに早馬が来て伊都子姫が屋敷から姿を消したという連絡が入っていたので、恐れ多くもご聡明な主上にはお判りになっていたようですけどね」
うわぁ…
それって、お殿様や左近衛中将様の宮中での立場に影響する…??
新左大臣殿ご自身は、そう大したご出自ではないが新太政大臣殿の縁戚であられるし。
その左大臣殿の三男であられる左近衛中将様だって、放っとかれるわけがない。
まだ北の方もいらっしゃらないし」
「今まで見向きもしていなかった輩が左近衛中将様に群がっていますよ。
今度の秋の除目ではどれほど位を上げられるか、秘かに賭けの対象になっているくらいです。
左大臣殿も相当のやり手ですから…
左近衛中将様の姉君は入内して居られて、更衣でいらっしゃったのが、今度女御にお成りあそばすとか」
「そして、妹君は東宮に嫁いで居られるし。
政局がこれからどうなっても、失敗しないようになっている」
閉じたままの扇を口に当て、くすくすと笑う。
「だから、…月子姫は、左近衛中将様など放っといて、私の北の方になられれば良いのです。
私だって今は民部大輔だが、これからどんどん地位を上げていきますよ」
あたしににじり寄り、手を取る。
「年下はイヤ」
あたしが今の義光君の話に気を取られて上の空で答えると、義光君はムッとしたように言う。
「年下って言ったって!
一つしか違わないじゃないですか!
弟の伊靖とも仲が良いし、姉君の幼いころだって知っている」
月子姫の生い立ちは知らないが…と呟く。
「こらっ!義光っ!
人の姉を勝手に口説くな!」
伊靖君が外廊下から御簾を巻き上げて入ってくる。
「少輔、戻ったか。
ご苦労だったね」
まず少輔さんをねぎらい、あたしの手を握っている義光君の手をぴしゃりと叩いた。
「まったく、油断も隙も無いやつ。
烏丸小路の女にも、北の方をちらつかせていただろう」
「あっ、あれはっ!
あの女から言ってきたんだよ!」
伊靖君の言葉に、義光君は慌てて弁解する。
「そ、それより、お前遅かったな。
どこぞの女人のところへ寄ってきたのか?」
「違うよ…
左京亮に捕まってたんだ」
伊靖君ははぁーっと大きなため息をついた。
「左京亮?」
あたしと義光君が同時に問う。
「昨日、糺の森で会った方?」
あたしが訊き、伊靖君はげんなりしたように頷く。
あたしが言うのもなんだけど、なんだか下品な口調の人だった。
「昨日?糺の森?!」
驚いたように義光君があたしと伊靖君の顔を交互に見る。
「昨日お忍びで姉上と二人で左近衛中将様の流鏑馬を観に行ったんだ。
そこで左京亮に会っちゃって。
咄嗟に『叔母上だ』って誤魔化してその場は離れたんだけど」
「その後、姉上が流鏑馬を終えたばかりの左近衛中将様の御馬に乗せられて遁走するという椿事が出来してねぇ…
その場は結構な騒ぎになったんだよ。
それを見ていた左京亮が、今日『あれは叔母なんかじゃない、姉だろう』と。
『石の姫と噂される方が、あんなに美人とは知らなかった、ぜひ紹介しろ』ってうるさくて」
あらら…あたしは赤くなってしまった。
昨日、騒ぎになっちゃったんだ。
そりゃそうだよね、神事が終わってないのに射手が居なくなっちゃったら…
左近衛中将様、本当にごめんなさい。
「やっと左京亮から解放されたかと思ったら、今度はなんと、主上からのお召があってさぁ…
桟敷席からあの騒ぎをご覧あそばしていたらしい。
あれは何だったのかと」
えーっ!
あたしは思わずのけぞる。
「そ、それは…そこにいたのが伊都子姫だと…
主上や他の方に知られたってこと?」
「その前から、父上のところに早馬が来て伊都子姫が屋敷から姿を消したという連絡が入っていたので、恐れ多くもご聡明な主上にはお判りになっていたようですけどね」
うわぁ…
それって、お殿様や左近衛中将様の宮中での立場に影響する…??
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