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第三章 賀茂祭・露頭の儀
25.微妙に睦言
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あたしは、喉が渇いていたのを思い出して、起き上がろうとした。
左近衛中将様…じゃなくて、元信様が「どうなさいましたか」と手を貸してくれる。
「喉が渇いて…」
とあたしが言いかけると「ああ、判りました」と言って、あたしをまた横たえる。
え、判ってる?
あたしは喉が…
元信様は横の小さな台の上にある、水差しから直接水を含み、あたしの方へかがんだ。
あたしの頤に指を添えて口を開けさせ、口移しで水を注ぎ込む。
冷たい水があたしの口の中を満たす。
…美味しい
元信様は三度繰り返して、あたしがもういいと首を振ると「おまけです」と言って深く口づける。
長いキスの後、元信様はあたしの頬や額を愛しそうに撫でて「…好きだよ」と囁いた。
あたしは、なんかもう、幸せすぎて、目を瞑った。
「…お文がすごく素っ気なくて、もうわたくしのことなんてどうでも良いのだと思っていましたわ」
拗ねてみせると、慌てたようにあたしの手を両手で握る。
「それは…長く書こうとしたのですが私の方が辛くて寂しくて、涙が止まらなくて書けなかったんです。
半分目を閉じてぱっと書いて、行直に託してしまった。
本当にすみません」
泣き虫だなあ、ホントに…
可愛いとか思っちゃう、あたしも末期症状かな。
「でも毎日、行直に姫のご様子を尋ねさせて、姫がどんなふうにお過ごしだったのかを聞いていました。
その話を聞いているだけで、私はとても楽しかった。
姫は、毎日何かしら新しいことをなさって居られる。
厨司長と何やら新しい料理を編み出したり、異母姉であられる縫姫と交流なさったり、女房達と面白い遊びを考えたり」
ああ、…オセロね。
あたし、囲碁も将棋もできないんでね。
暇つぶしに女房さん達とやったら、皆ハマっちゃって。
「こんな魅力的な人と一緒に暮らせたら、毎日がどれほど楽しいだろうと。
想像するだけで胸が弾みます」
だけど、と表情を曇らせる。
「今日、東宮殿下が姫の牛車に同乗して右大臣家まで来て、更に饗応まで受けたと聞いて、私の心は嫌な予感でいっぱいになりました。
あの方は人の好き嫌いがはっきりなさっていて、気に入らない人には表面上はにこやかでも非常に素っ気ない。
そして好奇心が旺盛で、新しいもの、珍しいものが大好きな方です」
そーだね、そんな感じ。
普通、あんなゲテモノ料理、初見で食べないよ。
「その東宮殿下が、流鏑馬神事で姫に目をつけられた。
楽しいこと、突飛なことが大好きな方だ。
きっと姫のことは大変気に入られたでしょう」
「二の姫にも会いにいらしたんですのよ」
あたしは言ってみる。
元信様の人を見る目は確かだわ。
もう口説かれたよあたし。
「私の妹姫も東宮殿下に嫁いでいらっしゃるが、物静かな性格の為か、東宮殿下にはあまり気に入られていなくて訪れも間遠、部屋は常に寂しいものです。
姫ほどの生き生きとした精彩を放つ方には、二の姫も恐らくは太刀打ちできないでしょう」
ぎゅっと自分の両手を握り、額に当てて目を瞑る。
「やっと手に入れた貴女を絶対に手放したくない。
主上の想い人を横から攫うなんて大罪を犯しているのは判っている。
民部大輔にだって決して渡すものか」
「貴女は私のものだ。
そう、思っていて良いですね?」
そう言うと、またあたしに長いキスをした。
左近衛中将様…じゃなくて、元信様が「どうなさいましたか」と手を貸してくれる。
「喉が渇いて…」
とあたしが言いかけると「ああ、判りました」と言って、あたしをまた横たえる。
え、判ってる?
あたしは喉が…
元信様は横の小さな台の上にある、水差しから直接水を含み、あたしの方へかがんだ。
あたしの頤に指を添えて口を開けさせ、口移しで水を注ぎ込む。
冷たい水があたしの口の中を満たす。
…美味しい
元信様は三度繰り返して、あたしがもういいと首を振ると「おまけです」と言って深く口づける。
長いキスの後、元信様はあたしの頬や額を愛しそうに撫でて「…好きだよ」と囁いた。
あたしは、なんかもう、幸せすぎて、目を瞑った。
「…お文がすごく素っ気なくて、もうわたくしのことなんてどうでも良いのだと思っていましたわ」
拗ねてみせると、慌てたようにあたしの手を両手で握る。
「それは…長く書こうとしたのですが私の方が辛くて寂しくて、涙が止まらなくて書けなかったんです。
半分目を閉じてぱっと書いて、行直に託してしまった。
本当にすみません」
泣き虫だなあ、ホントに…
可愛いとか思っちゃう、あたしも末期症状かな。
「でも毎日、行直に姫のご様子を尋ねさせて、姫がどんなふうにお過ごしだったのかを聞いていました。
その話を聞いているだけで、私はとても楽しかった。
姫は、毎日何かしら新しいことをなさって居られる。
厨司長と何やら新しい料理を編み出したり、異母姉であられる縫姫と交流なさったり、女房達と面白い遊びを考えたり」
ああ、…オセロね。
あたし、囲碁も将棋もできないんでね。
暇つぶしに女房さん達とやったら、皆ハマっちゃって。
「こんな魅力的な人と一緒に暮らせたら、毎日がどれほど楽しいだろうと。
想像するだけで胸が弾みます」
だけど、と表情を曇らせる。
「今日、東宮殿下が姫の牛車に同乗して右大臣家まで来て、更に饗応まで受けたと聞いて、私の心は嫌な予感でいっぱいになりました。
あの方は人の好き嫌いがはっきりなさっていて、気に入らない人には表面上はにこやかでも非常に素っ気ない。
そして好奇心が旺盛で、新しいもの、珍しいものが大好きな方です」
そーだね、そんな感じ。
普通、あんなゲテモノ料理、初見で食べないよ。
「その東宮殿下が、流鏑馬神事で姫に目をつけられた。
楽しいこと、突飛なことが大好きな方だ。
きっと姫のことは大変気に入られたでしょう」
「二の姫にも会いにいらしたんですのよ」
あたしは言ってみる。
元信様の人を見る目は確かだわ。
もう口説かれたよあたし。
「私の妹姫も東宮殿下に嫁いでいらっしゃるが、物静かな性格の為か、東宮殿下にはあまり気に入られていなくて訪れも間遠、部屋は常に寂しいものです。
姫ほどの生き生きとした精彩を放つ方には、二の姫も恐らくは太刀打ちできないでしょう」
ぎゅっと自分の両手を握り、額に当てて目を瞑る。
「やっと手に入れた貴女を絶対に手放したくない。
主上の想い人を横から攫うなんて大罪を犯しているのは判っている。
民部大輔にだって決して渡すものか」
「貴女は私のものだ。
そう、思っていて良いですね?」
そう言うと、またあたしに長いキスをした。
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