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第四章 上達部との交流
4.猪突猛進の君
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陽が沈むころには、なっがい手紙が東宮から届いた。
マジですか…
さっき帰ったばっかじゃん。
猪突猛進という言葉は、この人の為にあるんだな。
あたしはしみじみと思う。
文面からすごい熱量を放つ手紙を読んでいるうちに、なんかもう、可笑しくて笑いだしてしまった。
こんなに何かひとつのことに熱中して周りも巻き込むパワーってヤバい。
そういえばあたしが、東宮評するところの「宇宙語」を無意識にしゃべっちゃうのって、東宮の前だけなんだよね。
例えば式部さんとか、元信様の前では絶対に出てこない。
式部さんや元信様は常識人だからかな。
東宮は、何を言っても面白がって興味を持ってくれそうだからなのか。
元信様はあたしが何をしても称賛してくれるけど、一緒にやろうとはしてくれない。
東宮は、あたしがやっていることを一緒に楽しんで、更に発展させようとする意気がある。
うん。面白いな。東宮。
…やってみるか、社交会。
でもすぐに色好い返事をするのも悔しいので、まあ、良いですよ的な返事を書く。
だけど名称は変えて頂きたい。
抵抗がありすぎる。
大殿油を灯した文机で、伊都子姫の筆跡に似せてなんとか書き終わると、封をした。
遅くなっちゃったな…と振り返ると、元信様がいた。
「!」
驚いて、持っていた手紙を取り落とす。
「殿下へのお文ですか」
元信様が拾ってくれて、あたしに手渡す。
「あまりにも集中して居られるようだったので、声をかけられませんでした」
「ああ…驚いた…」
あたしは、すごく動揺している自分に気づいた。
いや、相手は東宮だから。
お返事書いただけだから。
妹の婚約者だから、東宮は。
でも。
この返事を読んだら、東宮はどんな顔するかな。
喜ぶかな。
魅力的な姫だって思ってくれるかな。
…って思いが、どこかにあった。
ことに気づいた。
「脅かしてすみません。
せっかくお書きになったのだから、早くお届けした方が良いですよ」
微笑んで元信様が言う。
あたしは家人を呼んで、手紙を渡した。
すぐに届けに行ってくれるという。
ご苦労様です。
元信様はふうっとため息をついてあたしを見る。
「殿下が参内する刻限になってもなかなかいらっしゃらないので、人を遣って訊いたら、右大臣邸にお届け物をしに行かれたまま、お帰りになりませんと」
うわ…それ、マズくない?
あたしは手で口を覆った。
「右大臣は真っ青になって、今日のご訪問はお断りしたと。
なぜいらっしゃったのか判らぬと」
あれ?
伊靖君の口上と少し違う。
恐らく、右大臣邸に東宮が向かったのを、誰かがお殿様に報せたんだろう。
それで伊靖君が大慌てで退出して、白馬をかっとばしてあたしに報せに来たんだ。
でもそれを、公の場で言うことはできないから、判らないと言ったんだな。
「その後すぐに殿下が上機嫌で参内されて、なんとか会議は恙なく終わりました。
主上は会議のあとに殿下を残されて、意見をなさった。
だけど、殿下はオセロとかなんとか訳の判らないことをおっしゃって、全然聞いて居られない」
ちょっと…嫌だ…
それ知ってたら、あんな返事書かなかったのに!
あたしは両手で顔を覆った。
マジですか…
さっき帰ったばっかじゃん。
猪突猛進という言葉は、この人の為にあるんだな。
あたしはしみじみと思う。
文面からすごい熱量を放つ手紙を読んでいるうちに、なんかもう、可笑しくて笑いだしてしまった。
こんなに何かひとつのことに熱中して周りも巻き込むパワーってヤバい。
そういえばあたしが、東宮評するところの「宇宙語」を無意識にしゃべっちゃうのって、東宮の前だけなんだよね。
例えば式部さんとか、元信様の前では絶対に出てこない。
式部さんや元信様は常識人だからかな。
東宮は、何を言っても面白がって興味を持ってくれそうだからなのか。
元信様はあたしが何をしても称賛してくれるけど、一緒にやろうとはしてくれない。
東宮は、あたしがやっていることを一緒に楽しんで、更に発展させようとする意気がある。
うん。面白いな。東宮。
…やってみるか、社交会。
でもすぐに色好い返事をするのも悔しいので、まあ、良いですよ的な返事を書く。
だけど名称は変えて頂きたい。
抵抗がありすぎる。
大殿油を灯した文机で、伊都子姫の筆跡に似せてなんとか書き終わると、封をした。
遅くなっちゃったな…と振り返ると、元信様がいた。
「!」
驚いて、持っていた手紙を取り落とす。
「殿下へのお文ですか」
元信様が拾ってくれて、あたしに手渡す。
「あまりにも集中して居られるようだったので、声をかけられませんでした」
「ああ…驚いた…」
あたしは、すごく動揺している自分に気づいた。
いや、相手は東宮だから。
お返事書いただけだから。
妹の婚約者だから、東宮は。
でも。
この返事を読んだら、東宮はどんな顔するかな。
喜ぶかな。
魅力的な姫だって思ってくれるかな。
…って思いが、どこかにあった。
ことに気づいた。
「脅かしてすみません。
せっかくお書きになったのだから、早くお届けした方が良いですよ」
微笑んで元信様が言う。
あたしは家人を呼んで、手紙を渡した。
すぐに届けに行ってくれるという。
ご苦労様です。
元信様はふうっとため息をついてあたしを見る。
「殿下が参内する刻限になってもなかなかいらっしゃらないので、人を遣って訊いたら、右大臣邸にお届け物をしに行かれたまま、お帰りになりませんと」
うわ…それ、マズくない?
あたしは手で口を覆った。
「右大臣は真っ青になって、今日のご訪問はお断りしたと。
なぜいらっしゃったのか判らぬと」
あれ?
伊靖君の口上と少し違う。
恐らく、右大臣邸に東宮が向かったのを、誰かがお殿様に報せたんだろう。
それで伊靖君が大慌てで退出して、白馬をかっとばしてあたしに報せに来たんだ。
でもそれを、公の場で言うことはできないから、判らないと言ったんだな。
「その後すぐに殿下が上機嫌で参内されて、なんとか会議は恙なく終わりました。
主上は会議のあとに殿下を残されて、意見をなさった。
だけど、殿下はオセロとかなんとか訳の判らないことをおっしゃって、全然聞いて居られない」
ちょっと…嫌だ…
それ知ってたら、あんな返事書かなかったのに!
あたしは両手で顔を覆った。
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