三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
89 / 307
第四章 上達部との交流

6.思考パターンのシフトチェンジ

しおりを挟む
 「私は欲深い…
 貴女の心がほんの少し、私の方へ向いてくださったことを知ったら、もう次には言葉を欲しがる。
 きっと言葉を得れば、次には身体を欲してしまい、その次には永遠の愛をと」
 さっきのあたしのように、両手で顔を覆って、言葉を続ける。

 「今の状況をただ喜んで居ればいいものを…
 欲深な私に、御仏が罰を与えて居られるのでしょう。
 嫉妬の業火で身を焼かれるほどに苦しい思いをせよと」

 床に伏してしまう。
 あたしは、慌てて起こした。
 顔を覆った指の間から、涙がとめどなくあふれているのを見て、胸が痛む。

 「そ、んなこと…誰かを好きになれば、あたりまえのことでしょう?
 あたしだって、元信様に内大臣の姫君との縁談があることを知った時には、とても辛かった。
 一夫多妻のこの時代だって、やっぱり何人かの妻のうちの一人では嫌なのよ。
 あたしだけを好きでいて欲しいって、思っちゃうのよ」

 あたしはもう、本当のことを言ってしまおうかと思った。
 あたしは伊都子姫じゃない。
 パラレルワールドの日本から伊都子姫の身体に乗り移った、死者の霊魂であることを。

 本当は、伊都子姫としてではなく、あたし自身を好きになって欲しいと。
 伊都子姫の身体を借りている身だけど、心はあたし自身のものであると。

 元信様は手を外してあたしを見た。
 「私を憐れんでくださるのですか」
 「違います!
 何でそんなに考え方がマイナーなのよ!
 あたしはあなたが好きですって言ってるの!」
 元信様のあまりにも暗い思考に、あたしは思わず高らかに宣言してしまった。

 だけどよく考えたら、元信様の思考パターンって、現代日本にいたころのあたしに似てるんだ。
 傷つかないように、いつも最悪のことを考えて、予防線を張るっていう思考。
 自分にいつも自信がなかった。
 あたしはここに来て、いろんな人に触れあって、少しは考え方が変わったのかもしれない。

 「姫…」
 唖然としてあたしを眺めていたが、慌てたように懐紙で涙を拭いた。
 「何をおっしゃって居られるのか、ちょっと判らないところもありますが…
 私を、好きだと…?」

 「そう言ってます。
 じゃなきゃキスなんてしないでしょ。
 しつこい人は嫌いよ」
 照れ隠しに横を向いて言う。

 元信様は慌てたように
 「判りました、しっかりとお言葉を承りました。
 …ありがとう、本当に嬉しい」
 と言って、あたしを抱きしめた。

 「姫が誰でも、私の想いは絶対に変わることはありません。
 私は、あなたという人を愛している。
 それだけは覚えておいて」

 耳元で囁くと、身体を離して立ち上がった。
 「すみません、これから宮中に戻ります。
 主上から用事をたくさん言いつけられているので…
 少しのつもりが長居してしまった。
 私も殿下のことを言えないですね」

 「愛しい人、また会いに来ます」
 頬にキスすると、身を翻して「行直!」と呼びながら部屋を出て行った。

 え、どういう意味…?
 あたしは元信様の言葉を思い出して、少し寒気がした。
 それにあたしってば!
 さっき、頭に血が上っちゃって、現代語で元信様に話しかけてなかった?!

 やば…
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...