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第四章 上達部との交流

7.課題の食材

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 その後、元信様から文が来た。
 
 皆、マメだなあ…
 スマホでLINEのスタンプだけ送る時代から来た人間には、驚異的なマメさだよ。

 『先ほどは大変失礼しました。
 愛しい貴女を苦しませて泣かせて、自己嫌悪でいっぱいです。
 殿下との催しや、やり取りなど、今まで通りお続けくださいね。
 私は、生き生きと毎日を過ごされる貴女を見ているのが好きなのです』

 優しい人だなあ。
 あたしだったらきっと、今すぐあの女との交渉はって!って言っちゃうだろうな。
 元信様の言葉に甘えるわけじゃないけれど、東宮とのやり取りは断ちたくない。
 あたしにこの世界での、新たな側面を見せてくれそうな人だから。

 あたし、本当にこの世界に来て性格が変わった。
 元信様を始め、周りのみんなのお陰だと思うんだけど。
 伊都子姫、あたしにこんなに楽しく生きるチャンスを与えてくれてありがとう。
 あなたはそんなつもりじゃなかったかもしれないけどね。

 そういえば、第一回目の社交会での課題があるとか言ってたな。
 課題の食材って何だろう。

 あたしは内侍さんに声をかけてから、厨に出かけた。
 厨に顔を出すと「お姫様!」とゆらちゃんがニコニコして声をかけてくれる。

 わぁ…なんだこれっ!
 皇子様は、加減というものを知らんのか。
 あたしはぽかんと口を開けたまま、台の上を見つめた。

 台の上には無数の壺に入った蜂蜜と胡麻油、あとなんだかよく判らないものがうずたかく積まれていた。
 料理長は嬉しそうに笑っている。
 
 「凄いですよ、姫様。
 さすが東宮様です。
 山海の珍味が盛りだくさんで。
 腕が鳴りますよ!」

 これだけのものを、あちこちの地方からたった一昼夜で揃えて持ってくるんだから…
 東宮の財力と権力は計り知れないな。

 「わたくし宛の食材ってあった?
 東宮様が、初回の催しでの、参加者全員の課題だとおっしゃって居られたのだけど」

 あたしが尋ねると、ゆらちゃんが「あ、これだと思います」と紙に包んだものを差し出した。
 結構な嵩がある。
 植物っぽいな。

 開けてみると、…枝豆だ!

 枝豆あったんだ、ってことは大豆もあるんだ!
 ひしおでしか見たことなかったから、大豆をそのまま食べる文化はないのかと思ってた!

 うわお!
 醤油が作れるじゃん!
 
 平成日本にいた時、両親と千葉の野田ってところにある醤油工場に見学に行ったことがあって、そこで作り方を見たんだ。
 ひとりでテンション上がるあたしを尻目に、料理長は難しいですね…と呟く。
 
 「これは…あまり使ったことがありません。
 東宮様も、難しいお題を出されたものだ」
 あまり一般には普及していないのか。
 平成の日本では、日本人には欠かせない食材になっているのにな。

 第一回目の社交会まであと六日。
 それまでに、いろいろ作ってみよう。
 他の参加者はどんなものを作ってくるのかな。
 楽しみだわ。
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