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第四章 上達部との交流
11.乗馬の稽古
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民部大輔様がお越しになります、と先触れが来てあたしは白拍子の衣装を着た。
「まあ…お似合いですわ、姫様」
「なんてお可愛らしいのでしょう」
と女房さん達が絶賛してくれる。
ホントかなあ…
全身を写す姿見というものが存在しないので、あたしには見ることができない。
伊都子姫は、巷では美人で名が通っているらしい。
深窓の令嬢であまり誰も顔を見たことがないという理由を差し引いても、男性たちの反応を見る限り、やっぱり美人なんだろうな。
あたしの本当の顔を見たら、どんな顔するんだろうみんな。
…反応が怖いわ。不可能で良かった。
あたし用に作ってもらった小さな沓(本当に足が小さいのよ、伊都子姫は…)を階の下に用意してもらう。
「月子姫、ご準備はいかがですか」
義光君の声がする。
あたしは巻き上げられた御簾をくぐって、外廊下に出る。
あたしを見た、義光君の動きが停まる。
「月子姫…」
呆然と呟き、沓のまま階段を駆け上がってくる。
「何してんのっ沓、沓!」
驚いて指さすあたしの声を無視して、左腕で肩を抱いて顔を覗き込む。
「姫これは…反則でしょう…」
と右手であたしの手を握る。
こら、離せ!
あたしは手を振りほどく。
「そんなことするなら、東宮様に講師を替えてもらうから!」
はっとしたように、義光君は手を離し、腕を解く。
「申し訳ありません…あまりに美しくて…東宮殿下におっしゃるのは…それだけは、辞めてください」
可哀相なくらい萎れてしまって、あたしはちょっと言い過ぎたかな…と思ったけど。
これでさっきみたいなことはなくなる、とホッとした。
馬場に行けるレベルでは全然ないので、まずは庭で厩舎の舎人に見守られながら、義光君からレクチャーを受ける。
「最初に淡香花と仲良くなりましょう」
と言われ、ニンジンを手渡される。
あたしはこわごわ、ニンジンを淡香花の口の前に差し出す。
淡香花は、ぱくっと食べてくれた。
わ、食べた!
嬉しくて後ろにいる義光君を見上げる。
義光君もあたしを見てにこっと笑ってくれる。
「触れて撫でてあげてください」
義光君が言って、鬣《たてがみ》から耳の後ろ辺りを撫でる。
あたしもやってみる。
大人しい。
黙って撫でられてくれている。
「そう、お上手ですよ」と言いながら「本当に良い馬ですね、淡香花は…」
優しく首のあたりを撫でる。
その手の動きを見ていて、あたしはなんだか胸がドキドキして目を逸らした。
義光君があたしの頬や髪を撫でる感じ、に似ている気がして…
それから、馬具の名称や扱い方を教えてもらって、初日の練習は終わった。
すごく楽しかった。
厩舎の舎人に牽かれていく淡香花を見送って義光君を振り返り「ありがとう、とても楽しかったわ」と言うと、義光君は「いえ…」と言ってふっと目を逸らした。
「明日は雨が降るかもしれないと陰陽師が申しておりました。
雨が降らなかったら、続きをいたしましょう」
ああそうなんだぁ…残念。
でも天気じゃしょうがないよね。
「お礼におやつを食べて行かない?
今日は、白玉のお団子に蜂蜜をかけたのよ」
あたしが誘うと、義光君はまた目を逸らして「いえ、やめておきます。これで失礼します」と言って、あたしを階の下まで連れていく。
かがんであたしの沓を脱がせてくれて「では、また」と軽く頭をさげて、帰っていった。
あたしは後ろ姿を見送って、しばらくそこから動けなかった。
足の甲に残る、義光君の唇の感触。
「まあ…お似合いですわ、姫様」
「なんてお可愛らしいのでしょう」
と女房さん達が絶賛してくれる。
ホントかなあ…
全身を写す姿見というものが存在しないので、あたしには見ることができない。
伊都子姫は、巷では美人で名が通っているらしい。
深窓の令嬢であまり誰も顔を見たことがないという理由を差し引いても、男性たちの反応を見る限り、やっぱり美人なんだろうな。
あたしの本当の顔を見たら、どんな顔するんだろうみんな。
…反応が怖いわ。不可能で良かった。
あたし用に作ってもらった小さな沓(本当に足が小さいのよ、伊都子姫は…)を階の下に用意してもらう。
「月子姫、ご準備はいかがですか」
義光君の声がする。
あたしは巻き上げられた御簾をくぐって、外廊下に出る。
あたしを見た、義光君の動きが停まる。
「月子姫…」
呆然と呟き、沓のまま階段を駆け上がってくる。
「何してんのっ沓、沓!」
驚いて指さすあたしの声を無視して、左腕で肩を抱いて顔を覗き込む。
「姫これは…反則でしょう…」
と右手であたしの手を握る。
こら、離せ!
あたしは手を振りほどく。
「そんなことするなら、東宮様に講師を替えてもらうから!」
はっとしたように、義光君は手を離し、腕を解く。
「申し訳ありません…あまりに美しくて…東宮殿下におっしゃるのは…それだけは、辞めてください」
可哀相なくらい萎れてしまって、あたしはちょっと言い過ぎたかな…と思ったけど。
これでさっきみたいなことはなくなる、とホッとした。
馬場に行けるレベルでは全然ないので、まずは庭で厩舎の舎人に見守られながら、義光君からレクチャーを受ける。
「最初に淡香花と仲良くなりましょう」
と言われ、ニンジンを手渡される。
あたしはこわごわ、ニンジンを淡香花の口の前に差し出す。
淡香花は、ぱくっと食べてくれた。
わ、食べた!
嬉しくて後ろにいる義光君を見上げる。
義光君もあたしを見てにこっと笑ってくれる。
「触れて撫でてあげてください」
義光君が言って、鬣《たてがみ》から耳の後ろ辺りを撫でる。
あたしもやってみる。
大人しい。
黙って撫でられてくれている。
「そう、お上手ですよ」と言いながら「本当に良い馬ですね、淡香花は…」
優しく首のあたりを撫でる。
その手の動きを見ていて、あたしはなんだか胸がドキドキして目を逸らした。
義光君があたしの頬や髪を撫でる感じ、に似ている気がして…
それから、馬具の名称や扱い方を教えてもらって、初日の練習は終わった。
すごく楽しかった。
厩舎の舎人に牽かれていく淡香花を見送って義光君を振り返り「ありがとう、とても楽しかったわ」と言うと、義光君は「いえ…」と言ってふっと目を逸らした。
「明日は雨が降るかもしれないと陰陽師が申しておりました。
雨が降らなかったら、続きをいたしましょう」
ああそうなんだぁ…残念。
でも天気じゃしょうがないよね。
「お礼におやつを食べて行かない?
今日は、白玉のお団子に蜂蜜をかけたのよ」
あたしが誘うと、義光君はまた目を逸らして「いえ、やめておきます。これで失礼します」と言って、あたしを階の下まで連れていく。
かがんであたしの沓を脱がせてくれて「では、また」と軽く頭をさげて、帰っていった。
あたしは後ろ姿を見送って、しばらくそこから動けなかった。
足の甲に残る、義光君の唇の感触。
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