三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
99 / 307
第四章 上達部との交流

16.算学

しおりを挟む
 それからお殿様と伊靖君も加わり、また宴会になってしまった。
 お殿様はとにかく上機嫌だった。
 二の姫のところに東宮が来てくれたこと。
 さきの太政大臣の子息である、権中納言様が来てくれたこと。

 話の端々から想像するに、前の太政大臣と右大臣であるお殿様は政治の面で結束が強かったらしい。
 前の太政大臣が失脚して、お殿様も芋づる式に失脚したみたい。
 だから、権中納言様ともある程度親しかったようで、楽しげに話していた。

 今日は、義光君は来なかったんだ…
 あたしは何となく、ほんの少し、寂しかった。
 いつもバカみたいな明るい笑顔、色素の薄い綺麗な瞳。
 まっすぐに向けてくれる、アホみたいな情熱。

 「どうなさいましたか」
 と隣に座る元信様があたしの顔を覗き込む。
 「いえ…わたくし、いつまでこの恰好でいれば宜しいのでしょう…」
 あたしは白拍子の衣装を見下ろしてため息をつく。

 「東宮殿下はとにかく貴女のそのいでたちがお気に入りあそばしたようですからね…
 まあ、そのお気持ちはよく判ります。
 本当に天女のように、この世のものならざる美しさですよ」

 そうかなあ…
 単にコスプレ好きなだけなんじゃ…

 二の姫は玄米食の夕食を摂るため、部屋に帰っていった。
 何度も東宮を振り返り、とても名残惜しそうだった。
 のに、東宮ときたら、二の姫が居なくなった途端「姫、こちらへ、ここへ来てください」と自分の隣を指さして急かす。
 
 酷いよ、本当に。
 二の姫の気持ちに気づけ!

 「いえ…わたくしはここで」
 と元信様の直衣の袖に触れる。
 元信様は黙って、あたしの手を握る。

 それを見た東宮は、どこかが痛むように片目を細めた。
 「左近衛中将、姫をこちらへ」
 硬い声で命令する。

 元信様はぐっと力を入れてあたしの手を握る。
 それから「…姫、東宮殿下のお隣へお越しください」と食いしばった歯の間から絞り出すように言う。

 元信様…
 あたしは驚いて、手を引かれるままに立ち上がる。
 
 「姫、先ほどからずっと、あなたのことをお話し申しあげていたのですよ。
 右大臣も、二の姫の玄米食のことはご存知なかったらしい」
 あたしが隣に座ると、上機嫌に戻って話し出す。

 元信様は、ちょっと失礼いたします、と言って部屋を出て行ってしまった。
 お殿様と伊靖君は心配そうに見送っている。

 あたしは、東宮の話にまったく集中できなくて、上の空で適当に返事をしていた。
 「権中納言、姫の興味を引くような話をしてさしあげて」
 東宮もあたしのうっすい反応にお手上げ状態になってしまったようで、権中納言様に丸投げする。

 権中納言様は苦笑して(すごいイケメンなので、そんな表情もカッコいい)、「姫のご興味をひけるかは判りませんが…」と言って、紺色の直衣の隠しから一葉の紙を取り出した。
 「これは、私が大学寮にいたころに学んだ数学の課題です。
 …姫は、計算の基礎知識はお持ちでしょうか?」

 いやいやいや。全然だよ。
 和算なんて…あれ?
 あたしは紙を覗き込む。
 
 ピタゴラスの定理じゃん。
 お、円周率。
 π《パイ》の概念があったんだ!
 おわお、懐かしいぜ!

 「比例・反比例の問題ですわね。
 うん、解けると思いますわ」
 あたしが夢中になって紙を見ていると、権中納言様は驚いたように「え、そちらの問題ですか?それは高等数学の部類に入るのですが…」と言って絶句する。

 全部見せて!
 あたしは権中納言様から紙をひったくった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...