三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第五章 四人きょうだい

4.義光

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 あたしは改めて、東宮に抱きしめられ無理矢理キスされた恐怖が甦ってきて、義光の胸にしがみついて大泣きしてしまった。
 怖かったよう…

 義光はあたしの背を黙ってずっと優しく撫でてくれた。
 
 やがて、漸く泣き止んだあたしは義光から身体を離して、懐紙をもらって涙を拭いた。
 「ごめんね…」
 涙でぐちゃぐちゃの顔を見られるのが恥ずかしくて、あたしはうつむいたまま義光に謝った。

 義光はあたしの両肩を持って、額と額をつける。
 「私の方こそ…すみませんでした。
 殿下を止めることができなかった。
 今日ほど、身分差というものを憎んだことはありません」

 あたしは首を横に振る。
 それを論じても仕方ない。
 ただ、偶然とはいえあのタイミングで来てくれた元信様に感謝…
 
 あたしは顔を上げた。
 義光はあたしの目を覗き込むように見る。
 「本当のこと、言わないでいてくれてありがとう。
 東宮様はすごく勘の良い方だから、あたしだけでは誤魔化せなかった」

 「月子姫の表情がすごい必死でいらしたから、内心可笑しくて仕方なかったですよ。
 まあ今日のところは何とか誤魔化せましたけど、東宮殿下も好奇心旺盛な方でいらっしゃるし、私に対してみたいに迂闊なことをおっしゃってはダメですよ」
 くすくす笑いながら、可笑しそうに話す。

 「義光よしあきと呼び捨てにしてくださったでしょう。
 それをお聴きあそばした殿下の悔しそうなお顔ったらなかったなあ…
 私は初めて優越感を感じましたね」

 あたしが乗馬の稽古の時とか、今まで何度も「義光君」と呼ぼうとして言いづらくて噛むので、義光が「もう呼び捨てで宜しいですよ」と笑いながら言ってくれたのだった。
 
 「しかし、暁の上様ご懐妊か…
 東宮殿下にとっても初めてのお子だし、太政大臣殿にとっても初孫であられるから、これからしばらくは東宮御所も大騒ぎになりそうですね。
 もし男皇子であらせられたら、太政大臣殿は次世代の外祖父になられる可能性がある。
 関白の座だって狙える」

 ああなんか歴史の授業で習ったような…
 摂関政治ってやつだね。
 
 東宮がさっき呟いていた「そんな筈はない」っていうのはどういう意味だろう…
 うーん。
 でもこれでしばらくは、東宮もあたしのところなんかに来ている暇はなくなるかな。
 
 ホッとする気持ちの中、どこかに少し寂しい気持ちが潜んでいるのをあたしは自覚している。
 キスだの后にするだの、そういうことをしなければ、楽しい人だしね。
 あのバイタリティは見習うべきところがある。

 まあでも、初めての赤ちゃんが生まれるんだもんね。
 奥さんの傍にいてあげなくちゃね。

 それから、義光と明日のクッキー作りの話をして、義光は「どんなものだか皆目見当がつきませんが、楽しみにしております」と言ってあたしの額にキスして帰っていった。

 アイツもあれだ、あんまり気安く接してると図に乗るやつだ。
 だけど、さっきは本当に助かった。
 
 あたしの真実の性格を知っているのは、この世界で義光だけだから…
 すごく気を許してしまう。

 でも本当は、元信様に知って欲しい。
 あたしの偽らざる顔を知ってなお、好きと言ってくれるだろうか。
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