三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第五章 四人きょうだい

20.権中納言様

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 「こら、権中納言、月子姫に手を出すなよ!」
 東宮が気がかりそうに声をかけてくる。

 「まさか、あなたじゃあるまいし」
 さらりと言って権中納言様は御簾を上げて入ってくる。
 
 あたしは東宮にキスされたことを思い出してしまって、頬が赤くなってしまった。
 
 「?どうしました? 
 ああ、ご心配ですか?」
 権中納言様は、御簾を上げたままにしようとする。

 「いえ、…大丈夫です」
 あたしは式部さんに、御簾を下げてもらった。
 
 「殿下と私と右近衛大将は、幼馴染でしてね。
 幼いころから三人で悪さばかりしたものです。
 だからあのような、気安い冗談をおっしゃるのですよ」
 
 権中納言様は笑って、懐から紙の束を取り出す。
 
 へえ…だから今でもこんなに仲がいいのか。
 良いなあ、竹馬の友ってやつだね。

 話し合って、四則演算は一度にやるのは難しいだろうということで、二段階に分けることにした。

 今日は比較的時間をたっぷり使ってやったけど、幾望会はどうしても東宮のやりたいことが中心になるので、盛りだくさんな内容になっちゃうから全部は無理かもね、と二人でため息をつく。

 それから、権中納言様のお手持ちの本から抜粋したという問題や、考えてきたという問題に取り組む。

 面白い。
 こういうの、大好物よ!

 ワクワクしながら解くあたしを見ながら、権中納言様はその端正な顔を曇らせた。
 「先ほどは、してはいけない質問を繰り返ししてしまって本当に申し訳ございません。
 ご気分を害されたのではありませんか。
 そんなに深い理由があろうとは、想像だにしなかったのです」

 あたしは顔を上げて権中納言様を見た。
 心配そうにあたしを見つめる、整った顔立ちの切れ長の美しい瞳に見惚れてしまう。
 
 「いえ、お気になさらないで。
 わたくしは、こうやってさまざまな知識を得て、権中納言様ともお親しくお話しできるような女人になれたことを嬉しく思っておりますの」
 
 この時代で数学の話ができる人に出会えるなんて…神様ありがとうって感じ!
 あ、御仏か。

 権中納言様は眩しそうに目を細める。
 癖なのかな?
 
 「月子姫、私は…」
 と言いかけたところで、じゅっと音がし、燃えかけの小さな虫が文机の上に落ちてきた。
 灯火の上を飛んで、燃えてしまったらしい。

 紙の上に落ちた虫は、紙も燃やし始める。
 あっと声を上げる間もなく、権中納言様が素手でバン!バン!と机を叩いて消火した。

 「手!…手がっ!」
 あたしは驚いて権中納言様の白くて、如何にも貴公子然とした綺麗な手を持った。
 煤で黒くなったてのひらは、少し火傷しているようだ。

 「大丈夫ですよ。…貴女が怪我したらいけないと思ったら咄嗟に手が出てしまった」
 権中納言様はあたしの手から自分の手を外すと、指をあたしのおとがいの下にあてて、少し仰向かせる。

 えっ?
 顎クイってやつ…?
 
 とか、あたしがパニクっていると、端正な顔を傾けて近づき、唇にそっとキスした。

 「すみません。
 貴女の抱えている秘密の一端を知ったことで、余計に愛しく感じてしまった」

 耳元で囁くと、立ち上がって御簾を上げ「燃えた虫を叩いて火傷してしまいました」と御帳台を出て行った。
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