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第六章 運命の歯車

21.第二回幾望会・5

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 元信様とお兄様、参議様と蔵人の頭様が組になり、東宮が一人になってしまった。
 東宮を含む、そこにいる皆があたしが東宮と組むと思っていたようで、あたしが「わたくしは正解を存じておりますから、解答者にはなりません」と言うと、東宮はものすごく悲しそうな顔をした。

 ちょっと…ガッカリとか残念とか、そういう表情なら対処のしようもあるけど…
 そんな悲しそうな、途方に暮れた表情はずるいよ…

 あたしはため息をつくと、衛門さんに、伊靖君と権中納言様を呼んできてくれるように耳打ちする。
 内侍さんは会釈して、そっと出て行った。
 いくらも経たないうちに「姉上、お呼びですか」と、いつもの調子で伊靖君が入ってくる。
 
 こいつも大概、肝っ玉が据わってるよなあ…
 ここに今、いる面々って結構な上流の方々よ。
 っていうかもう、慣れちゃったのかな。

 その後から「月子姫、こんばんは。ご機嫌麗しゅう」と権中納言様がにこやかに入って来る。
 その姿を見て、東宮が目を剥いた。

 「なぜ、そちがここに居る?!」
 驚愕して大声で言う。

 「幾望会に招《よ》んで頂けなかったので、右近衛大将と一緒に治部大輔のところで残念会を催しておりました。
 まさか、呼びだしがかかるとは思っておりませんでしたが」
 と、東宮にチクリと嫌味を言い、あたしの隣に座って嬉しそうに微笑む。

 あたしの後ろにいる衛門さんが、イケメンの微笑みに見惚れているのが判る。
 うん、判るよ、その気持ち。
 
 「勝手なことを…」
 東宮は歯ぎしりする。

 「まあまあ、こうやってお役に立てるのですから、居て良かったでしょ」
 と権中納言様は澄まして言う。
 さすが、東宮の幼馴染、一筋縄じゃ行かないわね。

 「で、どうすればいいんですか」
 と伊靖君。
 「数独の組分けで、東宮様がおひとりになられてしまったので、伊靖は東宮様とペアになって。
 これから数独の解き方を説明するのですが、権中納言様の方がわたくしよりお上手かと思いまして」

 伊靖君は頷いて、東宮の隣に移動する。
 権中納言様は、紙を貼りあわせて大きくしたものに描いた、数独の見本を女房さん達に掲げてもらいながら、皆に要領よく解りやすく説明してくれる。
 
 おおさすが。
 頼んで良かった。

 仏頂面であたしの手を持って弄びながら、まったく話を聞いていない東宮に、あたしは内心イライラする。
 ちょっと、ちゃんと聞いてよ!

 説明が終わると、グループごとに解いてみてもらう。
 皆さん、熱心に紙の上にかがみこむ。
 
 あたしは東宮の手を振り払って立ち上がり、元信様とお兄様のチームの傍に行った。
 「いかがですか?」
 と声をかけながら元信様の横に座る。
 
 「ああ…結構、難しいですね。姫がお考えになったのでしょう?」
 と元信様が言い、
 「うーん…こういう遊戯は初めてです」
 とお兄様が紙を見たまま呟く。

 「面白いですねえ…」とお兄様は数字を書き込みながら言って、「あ、そこ五だと、こちらの列にもうありますよ」と元信様に突っ込まれて「あっ、本当だ!」と消す。

 「兄上は案外、姫の仰るパズル?のようなものがお好きだと思います」
 と元信様があたしに囁く。
 「ビンゴゲームで当たると宜しいですわね」
 とあたしが言うと、微笑んであたしの頬にキスした。
  
 「こら元信、真面目に考えろ」
 とお兄様。
 「兄上が紙をそちらに持っていっちゃって、私は見られないんですよ!」
 と文句を言っている。
 元信様の日常の姿を見たようで、あたしはとても嬉しかった。
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