三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
165 / 307
第七章 宮中

1.宮中へ

しおりを挟む
 葉月の初め、参内の日が来た。
 日差しは秋めいて、気温も高からず低からず、気持ちよく晴れた日になった。
 日ごろの行いかな!

 元信様は楓間の更衣様とあたしの両方を行き来して、何かと心を砕いてくれた。
 東宮や右近衛大将様、権中納言様もいろいろとアドバイスをくれて、心強かった。
 皆、今日は楓間の更衣様のところに来てくれるみたい。

 朝早くに右大臣家を出て、牛車に揺られて宮殿へ向かう。
 内侍さんと式部さんが一緒に乗って、緊張の中にも話は弾み、楽しく道中は進んで行った。

 衛士が誰何する声、従者が答えてぎぎぎーっと大門が開く音、ゆっくり進む牛車。
 音と触覚だけだけれど、見えなくても心弾むものだと知った。
 普段、まったく外に出られないから、外の雑踏の音を聞くだけでもとても嬉しい。

 門を入ってからも、結構長いこと牛車に揺られている。
 すごい広いんだろうなあ…
 あたしは我慢できず、ちょっとだけ御簾を上げてみる。

 「姫、おはようございます」
 と窓のように切ってあるところから、ひょこっと顔を出したのは、元信様!
 「いつ開けてくださるかと、お待ちしておりましたよ」
 と笑う。

 「えっ…何で?」
 あたしは驚きすぎて、固まってしまった。
 「右大臣家から、騎乗して牛車に付き添って、ご一緒に参りましたよ」
 と、漆黒の馬の上からにこやかに言う。

 えーっなんだあ。
 一緒に牛車に乗ってくれればいいのに…

 「帰りはご一緒にお乗りくださいね」
 とあたしが言うと、元信様は照れたように
 「承知しました」
 とはにかむように笑って、愛馬を駆って殿しんがりについた。

 楓間というのは、後宮の中でもかなり奥まったところにあるらしく、着いた頃には疲れてしまった。
 
 淡香花に乗って、元信様と並走して来たかったな。
 なんちゃって。
 そんな技量はないけどさ。

 「蒲原右大臣伊隆卿大君、伊都子姫様ご到着にございます~」
 調子をつけて先触れの従者が大きな声で呼ばわる。
 牛車の後ろから元信様に手を引かれて、あたしは廊下に降り立った。

 ひ・・・ろい・・・
 あたしは眩暈を起こしそうになって、元信様に支えられて辛うじて立つ。
 でかい。広い。
 
 むこーーーの方までずーーーっと続く廊下。
 怖いほどの静けさ、ずらっと並ぶ大きくて太い柱のそこここに潜む闇。

 これが、大内裏ってやつか…
 あたしは息を飲んで立ち尽くす。

 元信様は「お久しぶりですからね、しかも後宮のこんな奥までいらっしゃったことはないでしょう、驚かれるのも無理はないですよ」と優しくあたしを支え、部屋の中へ案内した。
 あたしは扇で顔を隠してしずしずと中へ入り、大きな御帳台の前の床に敷いてある、薄縁の上に座る。

 ああー…最近では誰が来ても扇子なんかどっかやっちゃってるし、几帳も埃被ってるし、床にそのまんま座ってるし、いろいろめんどーくせー…

 「楓間の更衣様、本日はお招きいただき、ありがとうございます。
 蒲原伊都子でございます。
 楓間の更衣様におかれましては、ご機嫌麗しく遊ばし、恐悦にございます」
 できるだけ可愛い声で言って、手をついて頭を下げる。
 
 本当はねえ、美辞麗句をダラダラダラダラ並べた、長々しいご挨拶があるんだよ。
 覚えようと頑張ったんだけどね…うむ。
 数式や化学式なら即座に覚えられるんだけどねえ…

 御帳台の中で衣擦れの音がし、可愛らしい声がした。
 「伊都子姫様…ようこそおいでくださいました。
 お会いしたかったわ」

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...