三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第七章 宮中

2.石鹸と草紙

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 御帳台の御簾の端から、単重ひとえがさねの裾がこぼれている。
 紫の薄様ってやつだな…綺麗なグラデーションの配色。
 
 ほほー、こうやって少しだけ見せて、あとは想像させるんだな。
 きっととても美しい女人なんだろうな、と。
 平安朝風のテクニックね。

 「今日はゆっくりなさってくださいね。
 いつも弟からお話を伺っておりまして、草紙も拝見しておりますの。
 今日は楽しいお話をたくさんお聞かせくださいませね」
 弾んだ声で、楽しそうに言う。

 「ありがとうございます。
 本日は、楓間の更衣様に、僭越ながらお土産を持参いたしました。
 どうぞお納めください」

 「まあ…先日の蒸しパンなるものも、大変美味しゅうございましたわ。
 主上もお気に召したようで、たくさん召し上がって居られました。
 弟が甘いものをあまり食べなくて、わたくしに下さって良かったわ」
 コロコロと可愛らしく笑う。

 そ、そうか…元信様は甘いもの嫌いだったのか。
 じゃあ、いつも無理して食べてくれてたの?
 
 あたしの横に座っている元信様を、扇子の陰からちらっと見ると、元信様は慌てて首を横に振った。
 あたしの方へ顔を寄せ「姫のお作りになるものは何でも好きですよ!」と小声で言う。

 そういう観点か…ちょっと論旨がずれとるよ。
 まあ、お酒が好きみたいだからな、辛党なのか。

 御帳台の中で、お土産を見ている音がする。
 「あら…これは何かしら…
 伊都子姫様、こちらへいらしてご説明くださらない?」

 え、良いのかな。
 またも元信様を見ると、元信様は微笑んで頷く。

 膝行して、御帳台に近づく。
 扇で顔を隠しながらって難しいんだよすごく。
 短パンとかミニスカでざっくざっく大股で歩きたいぜ!

 御簾が少し上げられて、あたしは中へ入った。
 「伊都子姫様!」
 と嬉しそうに振り向いた楓間の更衣様は…綺麗!
 
 すごい美人!
 鏡で見る、伊都子姫よりも綺麗なんじゃないのかなあ。
 なんてね、ごめん伊都子姫。

 「まあ、こんなお可愛らしい方とは…
 弟が夢中になるのも無理はありませんわね」
 優しく言ってふふふと笑う。
 
 あたしは照れてうつむく。
 楓間の更衣様はあたしに近づき、手を取らんばかりにしてお土産の方へ連れて行く。

 「これは?何かしら」
 楽しそうに広げて見せる。

 「あ…それは石鹸でございます。
 元信様から、楓間の更衣様は甘い香りがお好きだと伺ったので、安息香の薫りをつけました」

 「本当…甘くて良い香り…これが、石鹸なのね。
 石鹸とは、草紙で読んだわ。
 水無月会の庚申待で、縫姫がもらったものね」

 えっ…

 あたしは固まる。
 なんで、楓間の更衣様が水無月会のこと知ってるの?

 「あ、姉上!いや、更衣様!」
 慌てたような元信様の声が御帳台の外から聴こえる。
 「草紙のことは、御内密にと…姫はご存じないのです」

 そのとき、わーっと泣く声が聴こえてきた。
 この声…内侍さん?!

 「申し訳ありません、姫様!
 すべて、わたくしのせいでございます!」
 内侍さんは打ち伏して泣いているようで、声がくぐもる。

 あたしは思わず、御帳台から出た。
 ぎょっとしたように、控えている更衣様の女房さん達が引いているのが判る。

 「内侍、どういうこと?
 怒らないから。顔を上げて、話を聞かせてちょうだい」
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