三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第七章 宮中

4.草紙の内容

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 更衣様の女房さんが草紙を持ってきてくれる。
 紙に綺麗な絹を貼って装丁された、美しい本だった。

 『月子姫物語』と飾り文字で書いてある。
 ははあ…とりあえず仮名なわけね。
 でも、東宮や義光や権中納言様、右近衛大将様はそのまま「月子姫」って呼んでるけどね。

 あまり草紙に興味ないあたし(っていうか、自分のことが書いてあると思うと気恥ずかしくてじっくりとなんて読めない)、パラパラとめくって斜め読みしていく。
 
 最初はなんと、あたしが(というか伊都子姫が)息を引き取った場面からだった。
 読者の要望により、遡って書いたらしい。
 ご苦労さん。

 えー…結構セキララっつうか、内侍さんこの場にいた?!みたいな場面まで詳しく書いてある。

 伊靖君を脅して馬に乗せてもらって流鏑馬神事に行ったこととか、路頭の儀で東宮が右大臣家についてきちゃった経緯いきさつとか、二の姫の病気の快癒、あたしの乗馬、幾望会etc…

 取材力、パねえ…
 怖いよこれ。
 
 「これ、ほぼ現実というか事実ですわね…
 内侍、どうやってこんなことまで調べたの?」

 「あの…侍女の小町とか、厨のゆら、二の姫様や伊靖様義光様、縫姫様もとても協力的で…」
 うぬう。お殿様になんか言われたか。

 「まあ…本当に現実にこのようなことが…」
 と更衣様がうっとりと呟く。
 周りの女房さん達も、ほぉ…とため息をついて頷いている。

 そんなに良いもんじゃないよ!
 とあたしは声を大にして言いたかった。

 でも、実際、文字にしてみるとなんだか憧れちゃうような世界だね…
 内侍さんの文章力も凄いんだろうけど。

 「他のお土産もご覧になられてはいかがですか。
 もうそろそろ、朝廷の実務も終わる刻限ですし、皆様いらっしゃってしまいますよ」
 と、ひとり蚊帳の外の元信様が声をかけてくる。

 女房さん達が、慌てたようにお土産を更衣様の元に運んでくる。
 「これは…今日はドーナツと月餅、クッキーにいたしました。
 小豆餡や枝豆のずんだ餡、胡麻餡を添えてあります」

 「それから、元信様のお兄様の定信様が先日の幾望会でとてもお気に召した、スライドパズルでございます。
 お兄様のは数字を揃えるものですが、更衣様は絵巻物がお好きと伺ったので、絵合わせになっております」

 あたしが説明すると、更衣様は色白の頬にぽっと紅を刷《は》いたように上気して、嬉しそうにパズルを眺めた。

 「美しい絵でございますわね…ありがとう。
 お菓子は、皆様がいらっしゃってからご一緒に頂きましょうか。
 ドーナツもとても楽しみ…でもわたくし、先ほどからちょっとお腹に違和感があるのですけど…」

 「典薬頭てんやくのかみをお呼びしますか?」
 几帳の向こうから元信様が言う。
 「いいえ…そこまでではないと思いますわ、大丈夫よ」
 と更衣様は笑う。

 その他のお土産も全部その場で見てくれて、いちいち感嘆の声を上げてくれる。
 良い人だな…
 内侍さんの草紙のお陰もあるのかもしれないけど。

 あたしは内侍さんに耳打ちした。
 「帰ったらまた話しましょう。
 書くこと自体は許可するわ。
 だけど、内容が微妙なところもあるから」

 「ありがとうございます…!」
 内侍さんはぽろぽろと涙を零した。
 式部さんが背を優しく撫でて「良かったわね」とほっとしたように言った。


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