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第七章 宮中
8.ひたすら消毒・洗浄
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それからは夕刻までバタバタだった。
東宮・右近衛大将様・権中納言様という、途方もなく高い御位の方々が走り回って説得してくれたおかげで、皆、素直にあたしの指示に従ってくれた。
後で聞いたところによると、主上も「伊都子姫に従いなさい」と命じてくれたらしい。
ありがとー!
元信様も狩衣に着替えて、あたしの傍へ来ていろいろと手伝ってくれる。
狩衣姿が素敵すぎて、ともすればあたしは元信様ばかり見ちゃって目を逸らすのが大変だった。
「姫は、この場の頭脳ですから。
指示をお出しください。
我々が、実際に身体を動かします」
元信様は真剣な表情で言い、右大臣家から大量の荷物を馬車に乗せて戻ってきた伊靖君や義光も頷く。
あたしは有り難く、でも遠慮なく皆をこき使った。
中宮様や女御様、女房さん達の中にも岩牡蠣を食べた人がいるらしく、被害は結構大きかった。
細かいものはエタノールで拭いたり漬けたりして消毒し、板敷や廊下や蔀は酢酸で拭きまくった。
酢酸は直に触ると手が荒れるので、右大臣家特製の、消毒用火ばさみが大いに役に立った。
挟む部分が広くなっていて、つかみやすく雑巾を絞ったりもできる、鍛冶師さん渾身の力作なのだ。
汚れた衣服は、火ばさみを最初は使って何度も洗い流して、石鹸を使うように指示した。
右大臣家の女房さんがちゃんと石鹸を伊靖君と義光に持たせてくれていた。
気が利くわ、後でボーナスよ!
中宮様や女御様の各部屋に金盥を配って、汚れ物の始末をしてもらうことにした。
金属だから、後で丸ごと煮沸消毒できる。
ひととおり洗浄と消毒が終わり、お后様方が落ち着いてお寝みになると、蔀の外は日暮れだった。
うぁー…疲れた…
あたしも一応着替え、楓間に座り込む。
朝、早かったせいもあって、猛烈な睡魔が襲ってくる。
ふと目を覚ますと「月子姫、大丈夫ですか」と声をかけられた。
え…ここどこだっけ。
ああ、宮中か…って!えっ?!
あたしは右近衛大将様に抱きかかえられて眠っていた、らしい。
「床に打ち伏して居られるから、驚きました。
姫の具合も悪くなられたのかと…
寝ていらっしゃるようだったので、起こすのもお可哀相かと」
右近衛大将様が、微笑んで言う。
「うわ…申し訳ありません。
朝早かったし疲れちゃって…」
あたしは起き上がろうとする。
右近衛大将様はあたしを離さず、ぎゅっと抱きしめる。
「姫、今日はいつもにも増して、本当に素敵でしたよ。
私はまた惚れ直してしまった。
いったい、何度好きにさせられたかな。
もう数えきれない」
「東宮殿下が本気でいらっしゃるのは判る。
驚いたことに、権中納言も本気らしい、あの女人嫌いが…。
でもね」
と言葉を切って、あたしの瞳を見つめる。
「私もそうなんですよ。
姫には信じられないかもしれないが。
弥生以前の伊都子姫には正直なところ惹かれたことはなかったが、幾望会で久しぶりにお会いしてからはずっとね」
でもそんなに接点無いよね?
あたしが寝ぼけ眼でぼんやり見上げていると、右近衛大将様は小さく笑う。
「一目惚れに理屈はないでしょう?」
「お口がお上手ですこと…」
とあたしは言って、右近衛大将様の腕の中から身体を起こす。
周りを見回すと、誰もいない。
「あら、他の皆様は?」
東宮・右近衛大将様・権中納言様という、途方もなく高い御位の方々が走り回って説得してくれたおかげで、皆、素直にあたしの指示に従ってくれた。
後で聞いたところによると、主上も「伊都子姫に従いなさい」と命じてくれたらしい。
ありがとー!
元信様も狩衣に着替えて、あたしの傍へ来ていろいろと手伝ってくれる。
狩衣姿が素敵すぎて、ともすればあたしは元信様ばかり見ちゃって目を逸らすのが大変だった。
「姫は、この場の頭脳ですから。
指示をお出しください。
我々が、実際に身体を動かします」
元信様は真剣な表情で言い、右大臣家から大量の荷物を馬車に乗せて戻ってきた伊靖君や義光も頷く。
あたしは有り難く、でも遠慮なく皆をこき使った。
中宮様や女御様、女房さん達の中にも岩牡蠣を食べた人がいるらしく、被害は結構大きかった。
細かいものはエタノールで拭いたり漬けたりして消毒し、板敷や廊下や蔀は酢酸で拭きまくった。
酢酸は直に触ると手が荒れるので、右大臣家特製の、消毒用火ばさみが大いに役に立った。
挟む部分が広くなっていて、つかみやすく雑巾を絞ったりもできる、鍛冶師さん渾身の力作なのだ。
汚れた衣服は、火ばさみを最初は使って何度も洗い流して、石鹸を使うように指示した。
右大臣家の女房さんがちゃんと石鹸を伊靖君と義光に持たせてくれていた。
気が利くわ、後でボーナスよ!
中宮様や女御様の各部屋に金盥を配って、汚れ物の始末をしてもらうことにした。
金属だから、後で丸ごと煮沸消毒できる。
ひととおり洗浄と消毒が終わり、お后様方が落ち着いてお寝みになると、蔀の外は日暮れだった。
うぁー…疲れた…
あたしも一応着替え、楓間に座り込む。
朝、早かったせいもあって、猛烈な睡魔が襲ってくる。
ふと目を覚ますと「月子姫、大丈夫ですか」と声をかけられた。
え…ここどこだっけ。
ああ、宮中か…って!えっ?!
あたしは右近衛大将様に抱きかかえられて眠っていた、らしい。
「床に打ち伏して居られるから、驚きました。
姫の具合も悪くなられたのかと…
寝ていらっしゃるようだったので、起こすのもお可哀相かと」
右近衛大将様が、微笑んで言う。
「うわ…申し訳ありません。
朝早かったし疲れちゃって…」
あたしは起き上がろうとする。
右近衛大将様はあたしを離さず、ぎゅっと抱きしめる。
「姫、今日はいつもにも増して、本当に素敵でしたよ。
私はまた惚れ直してしまった。
いったい、何度好きにさせられたかな。
もう数えきれない」
「東宮殿下が本気でいらっしゃるのは判る。
驚いたことに、権中納言も本気らしい、あの女人嫌いが…。
でもね」
と言葉を切って、あたしの瞳を見つめる。
「私もそうなんですよ。
姫には信じられないかもしれないが。
弥生以前の伊都子姫には正直なところ惹かれたことはなかったが、幾望会で久しぶりにお会いしてからはずっとね」
でもそんなに接点無いよね?
あたしが寝ぼけ眼でぼんやり見上げていると、右近衛大将様は小さく笑う。
「一目惚れに理屈はないでしょう?」
「お口がお上手ですこと…」
とあたしは言って、右近衛大将様の腕の中から身体を起こす。
周りを見回すと、誰もいない。
「あら、他の皆様は?」
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