三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
198 / 307
第八章 暗雲

4.右近衛大将様の苦労

しおりを挟む
 「では五位蔵人は、念願の月子姫との対面を果たしたから、もう宮中へ帰って準備を進めたまえ。
 私は月子姫と少し話があるのでね」

 さらっと右近衛大将様はついでのように話だし、五位蔵人様は苦笑して「判りました」と言ってあたしに向かってまた頭を下げた。

 「右近衛大将殿のおっしゃる通り、わたくしも一度、伊都子姫様にお目通り願いたいと存じておりました。
 帰りまして、家族同僚友人に自慢します。
 御鷹狩までの日程も詰まって居りまして、当日も何かとご迷惑をおかけすると存じますが、何卒よろしくお願い申し上げます」

 「あ、…お役目ご苦労様でございます。
 お気をつけてお帰りくださいね」
 と言って、あたしは式部さんを呼んで、お土産に今日のおやつのシナモンクッキーを包んでもらった。

 「おお、これが…有名な伊都子姫様の創作料理なのですね…
 誰にも内緒で頂戴します」
 と笑って押し頂いて、五位蔵人様は帰っていった。

 お辞儀をして送り出し、顔を上げると、すぐそばに右近衛大将様が座っていて、あたしは驚いて身を引く。
 この人ホント、気配ってものがないんだよ!

 「さて、月子姫、少し真面目な話をしましょうか」
 右近衛大将様は顔を傾け、あたしに甘く微笑みかけて言う。
 真面目な話をする顔なの、それ?

 「御鷹狩の日、主上が右大臣家にお立ち寄りあそばされるとは言っても、それは母屋であって関白殿やその他の重鎮がご一緒です。
 とても幾望会や、いつも私たちが遊びに来るときのような気安い感じでない」
 あたしの手を取って弄びながら右近衛大将様は語る。

 「しかし主上は、どうしてもこのお部屋で貴女と、二人でお話なさりたいと。
 その計画の為に、私が蔵人頭を押しのけて無理矢理このお役目に着かされたのです。
 当日、母屋で休憩なさり、お帰りになると見せかけて牛車を抜け出して、この部屋へお越しになります」

 「そ…んなこと…」
 できるの?!
 んなわけないよね?!

 「だーからもう、大変ですよ…
 随行の人数は絞りに絞って、どうしても必要な人員には口封じのための買収をかけている。
 私は毎日、神経の磨り減る思いです」
 
 うわー…ご苦労さんです…
 あたしが息を飲んでいると、右近衛大将様はちらりとあたしを見て、ため息をつく。

 「だけど、月子姫は主上が、お文で宮中へどうお誘いあそばしても、絶対に首を縦に振られない。
 頑としてお断りになるという意思が文面から立ち上ってくるようなお返事が来る。
 主上は見ているこちらが泣きたくなるほど、意気消沈なさる。
 協力せざるを得ないでしょう…」

 えーっ!あ、あたしのせい?
 宮中に行くのが面倒だっただけなんだけど…

 「私は主上と東宮殿下ご兄弟の従兄弟いとこだから、お二人が幼いころから存じ上げている。
 東宮殿下はお小さいころからずっとあんな感じで、天衣無縫、自由奔放であられる。
 でも主上は…周りの空気に聡く反応なさって、およそ、東宮(当時)らしからぬ行為などなさらなかった」

 「しかし月子姫に関しては、どうかなさってしまわれたのかと疑うほどのご執心ぶりでねえ…
 こちとら権中納言と毎日ため息ですよ」

 ああ…はあ…
 そんなこと言われても…
 あたしは困ってしまってうつむく。
 
 あたしが伊都子姫じゃない、別人だと判って、主上の中の何かが変わってしまったのか…
 伊都子姫の皮を被った、中身に興味あるだけ??
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...