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第八章 暗雲
9.敵?
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「主上…なぜ、ここに…」
あたしは驚いて尋ねる。
主上は切ない表情で微笑む。
「何故と言って…
もともと、余がそなたに会いたいがために無理に企画した御鷹狩であるのだよ。
余がここにいるのは当然であろう…」
あたしは手を洗い、女房さんに渡された懐紙で綺麗に拭いてから、主上の傍へ行った。
主上は座っていた位置をずらし、あたしを重ねた畳の上にあげて座らせる。
「月子姫…私がどれほど貴女に会いたいと焦がれていたか…
文を書いても使者を送っても、頑として首を縦に振らぬ貴女の意固地さには、伊都子姫が舞い戻ったのかと思うほどであった」
几帳を立てまわした空間の中で、主上はあたしに顔を近づけ、バリトンの深い声で囁く。
あたしは思わず辺りを見回す。
女房さん達には聞こえてはいないようだけど…
「主上…そのことは…」
あたしがうつむいて囁くと、
「判っているよ、あまりに貴女が私に意地悪するので、少しだけ困らせてやろうと思ったのだ」
と楽しげに笑う。
あ、のねえ…
あたしがツンと横を向いて見せると、主上は途端に困ったように手を取る。
「怒らないでおくれ…
…東宮と非常に仲が良さそうにしている声が聴こえてくるから、嫉妬してしまったのだよ。
月子姫は、お医師であられるのか?」
いえいえいえ、とんでもない!
あたしはぶんぶんと首を横に振る。
「宮中の食中毒の時といい、今日も一人で采配を振って病人や怪我人の治療までなさって…
女人は血を見るのが苦手なのではないのか?」
主上はしげしげとあたし見て、不思議そうに呟いた。
怪我人の治療というほどでは…
それに女性は一般的に男より血液には強いと思うよ、毎月自身の大量の血を見てるからね。
主上の周りにいる女人は、可愛らしく演技してるだけだよ、うん。
「わたくしのことより、東宮様のお怪我はどうなさったのですか?
幸い、大した傷ではなさそうですが…落馬までなさったとか」
あたしが式部さんからさっき渡された扇で口元を隠しながら主上の方へ近づいて囁くと、主上は暗い表情でうむ、と頷いた。
「恐らく東宮を狙った、事故を装った事件だと考えられる。
ただ、敵の狙いは軽いかすり傷を負わせるだけであったのだろうとは思う。
馬を射てしまったのは、たぶん、誤りであったのだろう」
「敵…とは…」
あたしは驚いて尋ねる。
ずいぶん、直截的な言葉が出てきたな…
主上はあたしの手を取り、細くきれいな指であたしの掌に『関白』と書いた。
あたしは息を飲んだ。
あたしは驚いて尋ねる。
主上は切ない表情で微笑む。
「何故と言って…
もともと、余がそなたに会いたいがために無理に企画した御鷹狩であるのだよ。
余がここにいるのは当然であろう…」
あたしは手を洗い、女房さんに渡された懐紙で綺麗に拭いてから、主上の傍へ行った。
主上は座っていた位置をずらし、あたしを重ねた畳の上にあげて座らせる。
「月子姫…私がどれほど貴女に会いたいと焦がれていたか…
文を書いても使者を送っても、頑として首を縦に振らぬ貴女の意固地さには、伊都子姫が舞い戻ったのかと思うほどであった」
几帳を立てまわした空間の中で、主上はあたしに顔を近づけ、バリトンの深い声で囁く。
あたしは思わず辺りを見回す。
女房さん達には聞こえてはいないようだけど…
「主上…そのことは…」
あたしがうつむいて囁くと、
「判っているよ、あまりに貴女が私に意地悪するので、少しだけ困らせてやろうと思ったのだ」
と楽しげに笑う。
あ、のねえ…
あたしがツンと横を向いて見せると、主上は途端に困ったように手を取る。
「怒らないでおくれ…
…東宮と非常に仲が良さそうにしている声が聴こえてくるから、嫉妬してしまったのだよ。
月子姫は、お医師であられるのか?」
いえいえいえ、とんでもない!
あたしはぶんぶんと首を横に振る。
「宮中の食中毒の時といい、今日も一人で采配を振って病人や怪我人の治療までなさって…
女人は血を見るのが苦手なのではないのか?」
主上はしげしげとあたし見て、不思議そうに呟いた。
怪我人の治療というほどでは…
それに女性は一般的に男より血液には強いと思うよ、毎月自身の大量の血を見てるからね。
主上の周りにいる女人は、可愛らしく演技してるだけだよ、うん。
「わたくしのことより、東宮様のお怪我はどうなさったのですか?
幸い、大した傷ではなさそうですが…落馬までなさったとか」
あたしが式部さんからさっき渡された扇で口元を隠しながら主上の方へ近づいて囁くと、主上は暗い表情でうむ、と頷いた。
「恐らく東宮を狙った、事故を装った事件だと考えられる。
ただ、敵の狙いは軽いかすり傷を負わせるだけであったのだろうとは思う。
馬を射てしまったのは、たぶん、誤りであったのだろう」
「敵…とは…」
あたしは驚いて尋ねる。
ずいぶん、直截的な言葉が出てきたな…
主上はあたしの手を取り、細くきれいな指であたしの掌に『関白』と書いた。
あたしは息を飲んだ。
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