三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第八章 暗雲

8.傷の手当て

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 医師が手当てをしようと、東宮の身体に手をかける。
 東宮は「触るな!」と目を剥いて、手を払いのける。

 「誰にも傷の手当てどころか見せても下さらないのです…
 今、お姫様が初めて傷をご覧になった感じで…」
 困り果てたように従者の一人が言う。

 「判ったわ。
 後はあたしがやるから、皆は下がって良いわ」
 あたしが言うと、東宮はほっと息をついて目を閉じたままあたしの手をまさぐる。
 
 こら。汚い手で触るんじゃない。
 あたしは東宮の手を払いのける。

 皆が驚愕したようにあたしを見つめ、恐ろしげな者を見る目に表情に変わって出て行くと、途端に東宮は「月子姫~痛い~」と泣き声を上げる。
 
 ええい、うるさい。
 甘えるんじゃない!

 あたしは木綿布で手荒く、手足の小さな傷を拭いていく。
 「痛い!痛いですよっ」
 東宮が悲鳴を上げるが、無視。

 薬師が膏薬を届けに来る。
 創傷に効くもの、打ち身に効くもの、など用途別に口の広い薬瓶に入れてある。
 量があまりなく、足りなくなるかもしれないので、追加で作ってもらう。

 あたしは東宮に向き直ると、足の怪我の部分、破れている狩衣を大きく裂いた。
 「わっ!姫、何をするんです!
 そこが痛いんですからダメです!」
 東宮が大きな声を上げ、首を上げてあたしを見る。

 「ここの傷を綺麗にしないと、手当てしたことにならないでしょう!
 黙ってなさい!」
 あたしが叱りつけると驚愕したように口を開け、そのまま枕に頭をつけて観念したように目を閉じた。

 「よしよし、いい子だね。
 ちょ…っと沁みるよ」

 生理食塩水を脱脂綿に浸し、傷口にこびりついた血を少しずつ溶かしていく。
 しばらくすると傷口が見えてきた。
 
 「痛いっ!姫、もそっと優しく!」
 東宮の悲鳴が上がる。

 「やってるよ!
 ちょっと黙って!
 集中してんのよこっちも!」

 あたしが怒鳴りつけると、ひくっとしゃっくりのような変な音を喉から発して、それきり黙った。
 時折呻き声をあげるけど、頑張って我慢しているらしい。

 傷口の周りを綺麗にし、傷口を手でふさぎながら、膏薬を塗った布を当てる。
 消毒はしないほうが良いって、保健の先生に聞いた。
 却って傷の治りを阻害するというエビデンスがあるとか…

 包帯もあまり良くないみたいだけど、絆創膏がないから仕方ない。
 包帯を少しきつめに巻く。

 よし。これで経過観察だ。
 あたしはほっと息をついて「終わったわ。誰か、東宮様のお召し換えを」と呼んだ。

 「月子姫、着替えが終わったら、またここに来て…」
 東宮がすがるような目で見る。
 手を伸ばして、あたしの手をぎゅっと握る。
 「誰も、もう信じられない…姫以外は」

 呟いた声が切羽詰まっていて、あたしは胸をつかれる。
 「判りましたわ。
 ここにおりますから。ご安心なさって」

 東宮の手をぽんぽんとなだめるように叩き、几帳から出ると、入れ違いに女房さん達が入っていく。
 あたしも手を洗おうと、盥の水に手を浸していると「月子姫」と低く響く優しい声がした。
 
 この声…
 あたしは顔を上げて、声のした方を振り向く。
 
 やっぱり、主上!
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