三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第八章 暗雲

7.東宮の怪我

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 あたしとお殿様は思わず顔を見合わせる。
 「宮殿にお帰り遊ばされる方が近いし、宮殿の方が医師も薬師くすしも揃っているし、どう考えても御所の方が…良くないですか?」
 お殿様が、恐る恐るといった感じでお使者に訊く。

 「私は、言われたことをお伝えに上がっただけで…
 詳しくは…」
 とお使者は困惑したように言う。

 「怪我と言ってもいろいろあるわ。
 東宮様のお怪我の程度は?」
 心臓を射抜かれたとか、頸動脈切ったとか、腕が一本落ちたとか、そんな怪我だったらここに来たって死人を出すだけだし。

 お使者は平伏し
 「それほど大きなお怪我ではないようです。
 おみ足を矢がかすって、馬の脇腹に当たり、馬が倒れて落馬されたのですが、とっさに馬体をけて受け身を取られたようで、殆どが擦過傷のようです」
 と言った。

 あたしはほっとした。
 良かった。
 大怪我じゃないんだ。

 仕方ない。
 ここに連れてくるっていうならもう、なんとか対応するしかない。

 あたしはお使者の相手をお殿様に任せ、お屋敷の医師と薬師を呼んだ。
 この時代の、創傷や擦過傷の手当てと薬について訊く。

 「馬糞を擦りこむ」と聞いて仰天する。
 そんなの、効くのっ?!

 医師からは、鷹狩に使う矢には毒矢もあるかもしれないと聞き、解毒剤も用意してもらうことにした。
 その他、薬とその成分を聞いてこまごまと指示を出し、次に女房さん達を集めて準備に取り掛かる。
 
 とりあえず母屋の休憩所を、熱湯で消毒した布で、隅々まで綺麗に拭き清める。
 天日に当てたしとねに綺麗なシーツ(みたいな新しい木綿布)を敷いて、枕も柔らかいものにする。
 蒸留水とたくさんのお湯を運び込み、金属製のバット(鍛冶師さん作)に脱脂綿とカットした綺麗な木綿の布を入れ包帯を用意する。

 大して準備も整わないうちに、先触れが来た。
 外廊下が騒がしくなり、小型の輿に乗せられた東宮が運び込まれてくる。

 几帳を立てまわした褥の上に移される。
 東宮は青い顔でぐったりして、目を瞑っている。
 医師とあたしで、すぐに傷をあらためる。

 あ、馬糞はついてない。
 良かった。

 大きな傷は一か所、左足の太腿の外側の創傷。
 狩衣を引き裂いて矢がかすめたらしい。

 「毒矢ではなさそうです」
 と医師が言い、そこにいた皆がホッとしたようにため息を漏らす。
 「ただ、思ったより傷が深そうですね」

 うん。
 血が固まってこびりついてるから全体でどれくらい血液が出たのかよく判らないけど、結構出血したっぽいな。
 まあ、腿の内側でなくて良かった。
 太い血管が通ってるからね。

 後は、落馬したときの打ち身と擦過傷が無数にあった。
 まあ、これくらいで済んで良かった。
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