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第八章 暗雲
10.兄弟・1
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「これからどう出てくるか判らない。
私や東宮が彼の思惑にとっくに気づいていたことに、今日、本人も感づいたようだから」
言ってあたしを見て、苦く笑う。
「こんな騙し合い・腹の探り合いばかりの殺伐とした人間関係の宮中は嫌になった…
貴女の笑顔が見たかった。癒されたかった。
私は、本当にたまに見せる伊都子姫の、ぎごちなく微笑む顔が好きだった。
しかし…」
あたしの頬に触れ、仰向かせる。
「貴女の笑顔…優しく柔らかく愛らしい…夢にまで出てくるのだよ。
同じ顔なのになぜ、こんなに表情の現れ方が異なるのか」
「私の願いはただひとつ。
貴女を、私だけのものにして、その笑顔を独り占めしたい」
あたしは主上の手から逃れてうつむく。
「そんなことおっしゃらないでください。
伊都子姫が…聞いてたらどうするの…」
どれだけ傷つくと思うのよ。
その時、女房さん達が東宮の几帳から出てきた気配がした。
あたしと主上の居る几帳の向こう側で遠慮がちに内侍さんの声がかかる。
「伊都子姫様…東宮様がお呼びでいらっしゃいますが…」
「月子姫~!」
内侍さんが言い終わる前に東宮の泣き声が聞こえる。
ああ…ハイハイ。
あたしが畳から降りようとすると、主上があたしの手をつかんだ。
「姫は、東宮が…?」
主上も泣きそうな顔になって訊いてくる。
「えっ違いますわ。
先ほど、着替えが終わったらまた行くと申し上げたからです。
宜しければ主上もお越しくださいませ」
東宮と二人になったら、また何か無茶苦茶言いそうだから。
互いに牽制しあってもらおう。
人払いして、主上と二人で几帳の中に入っていくと、東宮はあたしを見て、それから主上に視線を移し「兄上…」と呟いた。
「月子姫は、お医師ではないのだそうだから、あまり無茶を申すものではない」
主上は東宮の枕元に座り、諭すように言う。
そ、の伝聞調のビッミョーな言い方!
やめてくれる?
伊都子姫が医者の訳ないでしょーがっ
東宮にバラすつもりなの?!
「関白や…太政大臣は…?」
東宮は主上の後ろへ目をやりながら、疑うような口調で言う。
「宮中へ戻った。余が、そう命じた。
もっとも、あの者たちもそなたがこんなことになって、さすがに平気な顔でここへ来る勇気はなかったようだが」
主上は薄く笑った。
東宮はほっと息を吐き、片手で目を覆った。
「くそっ…油断した。
まさかあの場でこんな事を仕掛けてくるとは…」
「そなたが、御鷹狩ののち月子姫に会えるとあんまり浮かれているからであろう。
他の公達も笑って居ったぞ」
笑いを含んだ、艶のあるバリトンで主上がからかう。
「それは兄上も一緒でしょ!
われら兄弟で笑われて居ったのさ」
東宮は手を外して起き上がらんばかりの勢いで言う。
おいおい、ちょっと二人とも…
あたしは呆れて二人を眺める。
私や東宮が彼の思惑にとっくに気づいていたことに、今日、本人も感づいたようだから」
言ってあたしを見て、苦く笑う。
「こんな騙し合い・腹の探り合いばかりの殺伐とした人間関係の宮中は嫌になった…
貴女の笑顔が見たかった。癒されたかった。
私は、本当にたまに見せる伊都子姫の、ぎごちなく微笑む顔が好きだった。
しかし…」
あたしの頬に触れ、仰向かせる。
「貴女の笑顔…優しく柔らかく愛らしい…夢にまで出てくるのだよ。
同じ顔なのになぜ、こんなに表情の現れ方が異なるのか」
「私の願いはただひとつ。
貴女を、私だけのものにして、その笑顔を独り占めしたい」
あたしは主上の手から逃れてうつむく。
「そんなことおっしゃらないでください。
伊都子姫が…聞いてたらどうするの…」
どれだけ傷つくと思うのよ。
その時、女房さん達が東宮の几帳から出てきた気配がした。
あたしと主上の居る几帳の向こう側で遠慮がちに内侍さんの声がかかる。
「伊都子姫様…東宮様がお呼びでいらっしゃいますが…」
「月子姫~!」
内侍さんが言い終わる前に東宮の泣き声が聞こえる。
ああ…ハイハイ。
あたしが畳から降りようとすると、主上があたしの手をつかんだ。
「姫は、東宮が…?」
主上も泣きそうな顔になって訊いてくる。
「えっ違いますわ。
先ほど、着替えが終わったらまた行くと申し上げたからです。
宜しければ主上もお越しくださいませ」
東宮と二人になったら、また何か無茶苦茶言いそうだから。
互いに牽制しあってもらおう。
人払いして、主上と二人で几帳の中に入っていくと、東宮はあたしを見て、それから主上に視線を移し「兄上…」と呟いた。
「月子姫は、お医師ではないのだそうだから、あまり無茶を申すものではない」
主上は東宮の枕元に座り、諭すように言う。
そ、の伝聞調のビッミョーな言い方!
やめてくれる?
伊都子姫が医者の訳ないでしょーがっ
東宮にバラすつもりなの?!
「関白や…太政大臣は…?」
東宮は主上の後ろへ目をやりながら、疑うような口調で言う。
「宮中へ戻った。余が、そう命じた。
もっとも、あの者たちもそなたがこんなことになって、さすがに平気な顔でここへ来る勇気はなかったようだが」
主上は薄く笑った。
東宮はほっと息を吐き、片手で目を覆った。
「くそっ…油断した。
まさかあの場でこんな事を仕掛けてくるとは…」
「そなたが、御鷹狩ののち月子姫に会えるとあんまり浮かれているからであろう。
他の公達も笑って居ったぞ」
笑いを含んだ、艶のあるバリトンで主上がからかう。
「それは兄上も一緒でしょ!
われら兄弟で笑われて居ったのさ」
東宮は手を外して起き上がらんばかりの勢いで言う。
おいおい、ちょっと二人とも…
あたしは呆れて二人を眺める。
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