三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第八章 暗雲

12.兄弟・2

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 ふふ、と小さく笑って、東宮は目を閉じる。
 「この歳になって、兄上と一人の女人を巡って争うことになるとはなあ…
 しかも相手は、幼いころから知っているけど一度も好意など感じたこともない伊都子姫だ。
 笑い話にもならない…」

 「私は…入内して欲しいと、思っていたよ。
 愛情はあった…」
 主上は、うつむいて言う。

 東宮は「嘘だ」と一笑に付す。
 「兄上は、生まれながらの帝王だ。
 将来はこの娘と結婚するのだと言われながら育ち、素直で真面目な兄上はただ盲目的にそれを遂行しようとしただけだ」

 主上が何か言おうとするのを制して
 「情はあったかもしれない。しかし愛は無いな。
 それは伊都子姫だけじゃない、他の女人も皆に対して、そうだ」
 と断ずる。

 「だから今が不思議なんだ。
 こんなに一人の人間に執着する兄上を初めて見た。
 左近衛中将に、みっともないほど嫉妬して」

 「それはそなただって同じであろう…
 そなたがこんなに一人の女人に入れあげているのを見たことがない。
 右近衛大将と一緒にあちらの女人、こちらの女人と遊びまわって」

 あ…ははは。
 あたしは兄弟の言い合いに思わず笑ってしまった。
 あたしをネタに、仲良く口喧嘩したいだけじゃないの。

 「仲の宜しい御兄弟で遊ばしますこと。
 わたくしはエサにされるだけでございますから、下がりましょうか」
 
 立とうとすると、二人から両手をつかまれて座らせられる。
 ちょっともう、面倒なんだけど…

 「ここからが本当の、兄弟喧嘩だ」
 東宮が不敵な顔で兄宮を見る。
 主上も、黙って弟宮を見下ろす。
 
 「幼いころから兄上を尊敬していた。
 大好きな兄上をおたすけできるならと思って、なりたくもない東宮でいる。
 早く兄上に皇子が授かればいいのに、と思っていた」

 「しかし今回のことで、帝という立場の強さ、権力の大きさを思い知った。
 たかが女人一人に会うのに、宮中を上げて季節外れの御鷹狩を催す。
 主上の鶴の一声で、物凄い速さで準備が整い、帰路でもなんでもない右大臣家が休憩所に設定される」

 「兄上が本当に本気で月子姫を望んだなら、簡単に手に入るのだと判ったんだ。
 周囲に気を遣いすぎる兄上の性格上、強引な手段をとらないだけで」

 そう…なの?
 あたしは怖くなって主上を見る。
 主上は、表情を消してじっと東宮を見つめている。

 感情のこもらないその表情は、東宮の言うことを肯定しているようにも否定しているようにも見えた。
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