三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第八章 暗雲

13.兄弟喧嘩

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 「兄上から主上の座を頂く。
 そう決めた。
 そして月子姫を我が物にする」
 ニヤッと笑ってあたしの手を取る。

 「暁の上の子供が男の子なら、太政大臣を焚きつけて関白をたおし、兄上に譲位してもらう。
 女の子なら太政大臣を廃し、他の女人に産ませるまでさ」
 
 あたしはカッとして手を振り払う。
 「何をおっしゃるのっ
 女性は男の出世欲のために子供を産む道具じゃないわ!
 バカにしないでっ」

 主上は、怒りのあまり震えるあたしの両手を、ぽんぽんと優しく叩く。
 「月子姫。怒らないでやってください。
 私も弟も、ある意味、政治の道具なのだ。
 だからと言って、女人を道具扱いしていいわけではないがね。
 弟がこんなに自分の本心を露にするのを初めて見た」

 東宮を見て寂しげに笑う。
 「良いよ。
 帝の地位は、そなたに譲ろう」

 はっ?
 あたしと東宮は同時に声を上げる。

 主上はあたしの肩を抱き、額に口づけた。
 「私は退位して権力も何も持たぬ、ただの一人の男になって、姫に改めて求婚しようと思う。
 都から離れどこかの田舎で、二人で楽しくのんびり暮らせれば、それが一番の幸せだ。
 権力に頼るのはもうめたい。
 愛する人は、自分の力で手に入れたい」
 呟くように言って、あたしのこめかみにキスする。

 そんなこと…ダメだよ…
 あたしは呆然として、なされるがままに主上に抱きしめられる。

 「ちょ…兄上!
 何をおっしゃって…痛て…」
 東宮が思わず起き上がり、傷の痛みに顔をしかめたとき。

 カタリと小さな音がし、筆が転がってきた。
 がさっと慌てたように衣擦れの音がする。

 「誰だっ!」
 主上が聞いたこともないような怖い声で、几帳をぶっ倒しながら叫ぶ。
 
 女性の後ろ姿がちらっと見えた。
 あれは…

 「二の姫の、新しい女房!」
 あたしは大声で言った。

 「やはり間者であったか!」
 主上は歯ぎしりする。
 「左近衛中将の言う通りであったな…」

 「衛士!二の姫の女房を捕らえろ!
 絶対逃がすな!」
 東宮も大声で呼ばわり、大人数がバタバタと走り回る音が母屋中に響く。

 「人払いしてあったのが、仇になったな」
 主上は唇を噛む。
 「あの者が書いた書状が関白の手に渡ったら…」
 膝を拳で打つ。

 東宮は真っ青になってこぶしを握り締めている。
 あたしは立ったまま、愕然として走り回る家人たちを見ていた。

 あの二の姫の新しい女房さんは、関白のスパイだったの?!
 さっきの東宮の発言、聞かれてたらものすごくヤバくない…?
 

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