208 / 307
第八章 暗雲
15.元信様の訪問
しおりを挟む
その後、東宮は夕食も喉を通らない様子で、あたしが口まで養ってあげるとようやく少し口にした。
もー、甘えん坊なんだからなあ…
とはいえ、東宮が何を一番に気にしているかって言えば、今回のことでの主上の立場と、主上が言った「帝の御位はそなたに譲る」という言葉への心配なんだから、責めることはできない。
自分の立場には、自分で言うように本当にまったく頓着していないのだと解る。
帝になると言ったのだって、関白が主上に多大な影響力を及ぼしているのを案じて排除したいと思ったからだろうし(まあ、あとはあたしのことか)。
互いを思いやりあっている、仲の良い兄弟なんだな。
位が高すぎて、あまり表に出せないだけで。
夜になって、東宮は発熱した。
脚に負った割と大きな傷と、その後、心に負った痛手からだろう。
熱い手であたしの手を握り、熱に潤んだ瞳でみつめて「姫…傍にいて」と早い呼吸の合間に言う。
「ずっとここに居ります。
ご安心なさって、よくお寝みあそばせ」
あたしは東宮の額に浮かぶ汗を、濡らした布で拭いながら言う。
抗生剤があればなぁ…
本人の体力に任せるしかない。頑張れ。
深夜、二の姫が来た。
「お姉様…左近衛中将様がお越しです。
ここにはわたくしが居りますので、お会いなさいませ」
あたしの横に座りながら小声で囁く。
あたしは、あたしの手を握ったまま先ほどようやく眠った東宮の手を外して、二の姫に握らせた。
「お願いするわね。
額の布は、今変えたばかりだから、しばらくは良いわ」
あたしが小さな声で言うと、二の姫は頷いて、眠っている東宮の顔を愛しそうに見つめる。
そうだよね、本当はここには二の姫がいるべきだよね。
ごめんね。
待っていた侍女さんと共に急いで自分の部屋に戻ると、元信様が「姫!」と駆け寄ってきて、きつくあたしを抱きしめた。
そのままあたしを抱きあげて、御帳台に入る。
十二単着てるから、相当重かったと思うけど…
御帳台に入ってあたしを降ろし、胡坐をかいて「おいで」と両腕を伸ばす。
あたしが、え、どういうこと?と戸惑っていると、苦笑してあたしの腰に手を回して自分の膝の上に座らせた。
「姫、会いたかった」と囁いてぎゅっとあたしを抱きしめる。
そうなのよ、ここんとこずっと御鷹狩の準備やら、あたしの知らない任務で駆けずり回っていて、全然会えなかったのよ!
あたしの頬に手をあて、唇にキスする。
あたしが元信様の首に手を回すと、のしかかるようにして口づける。
舌は入れないのか。
とかなんとなく思い、途端に右近衛大将様のキスを思い出して、あたしは思わず身を引く。
顔がすごく熱くなる。
「姫…どうなさいましたか」
元信様は心配そうな不安そうな表情であたしの顔を覗き込む。
「いえ…」と言ってあたしは元信様の顔を見ていられず、顔を背ける。
やだもう…右近衛大将様が悪いんだっ!
「東宮殿下のことが、そんなにご心配ですか」
感情の無い声で元信様が呟く。
はい?
あたしは訳が分からず、元信様の顔を見た。
元信様は黙ってあたしを膝から降ろした。
一歩、身を引く。
もー、甘えん坊なんだからなあ…
とはいえ、東宮が何を一番に気にしているかって言えば、今回のことでの主上の立場と、主上が言った「帝の御位はそなたに譲る」という言葉への心配なんだから、責めることはできない。
自分の立場には、自分で言うように本当にまったく頓着していないのだと解る。
帝になると言ったのだって、関白が主上に多大な影響力を及ぼしているのを案じて排除したいと思ったからだろうし(まあ、あとはあたしのことか)。
互いを思いやりあっている、仲の良い兄弟なんだな。
位が高すぎて、あまり表に出せないだけで。
夜になって、東宮は発熱した。
脚に負った割と大きな傷と、その後、心に負った痛手からだろう。
熱い手であたしの手を握り、熱に潤んだ瞳でみつめて「姫…傍にいて」と早い呼吸の合間に言う。
「ずっとここに居ります。
ご安心なさって、よくお寝みあそばせ」
あたしは東宮の額に浮かぶ汗を、濡らした布で拭いながら言う。
抗生剤があればなぁ…
本人の体力に任せるしかない。頑張れ。
深夜、二の姫が来た。
「お姉様…左近衛中将様がお越しです。
ここにはわたくしが居りますので、お会いなさいませ」
あたしの横に座りながら小声で囁く。
あたしは、あたしの手を握ったまま先ほどようやく眠った東宮の手を外して、二の姫に握らせた。
「お願いするわね。
額の布は、今変えたばかりだから、しばらくは良いわ」
あたしが小さな声で言うと、二の姫は頷いて、眠っている東宮の顔を愛しそうに見つめる。
そうだよね、本当はここには二の姫がいるべきだよね。
ごめんね。
待っていた侍女さんと共に急いで自分の部屋に戻ると、元信様が「姫!」と駆け寄ってきて、きつくあたしを抱きしめた。
そのままあたしを抱きあげて、御帳台に入る。
十二単着てるから、相当重かったと思うけど…
御帳台に入ってあたしを降ろし、胡坐をかいて「おいで」と両腕を伸ばす。
あたしが、え、どういうこと?と戸惑っていると、苦笑してあたしの腰に手を回して自分の膝の上に座らせた。
「姫、会いたかった」と囁いてぎゅっとあたしを抱きしめる。
そうなのよ、ここんとこずっと御鷹狩の準備やら、あたしの知らない任務で駆けずり回っていて、全然会えなかったのよ!
あたしの頬に手をあて、唇にキスする。
あたしが元信様の首に手を回すと、のしかかるようにして口づける。
舌は入れないのか。
とかなんとなく思い、途端に右近衛大将様のキスを思い出して、あたしは思わず身を引く。
顔がすごく熱くなる。
「姫…どうなさいましたか」
元信様は心配そうな不安そうな表情であたしの顔を覗き込む。
「いえ…」と言ってあたしは元信様の顔を見ていられず、顔を背ける。
やだもう…右近衛大将様が悪いんだっ!
「東宮殿下のことが、そんなにご心配ですか」
感情の無い声で元信様が呟く。
はい?
あたしは訳が分からず、元信様の顔を見た。
元信様は黙ってあたしを膝から降ろした。
一歩、身を引く。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる