三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第八章 暗雲

17.妄想と現実

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 元信様は涙を拭いて、ため息をつく。
 「主上もずっと、月子姫がこう言ったこうなさったと、そんな話ばかり。
 東宮殿下に皇子が生まれようと生まれなかろうと、どうでもいいと…」

 「挙句の果てに、さっさと殿下に御位を譲って、田舎で月子姫と二人で暮らすのだと。
 謀反などないとおっしゃって、関白殿が目を白黒なさって居られた」

 あーあ。
 主上の妄想が爆走してるなあ…
 いや、主上のことだから、ロジックで関白を煙に巻こうとしてるのかしら…?

 まあでも、あたしもさっき、元信様・主上・東宮の誰を選んでも…
 みたいな妄想してたしね。
 人のことは言えないわ…

 元信様は、あたしをじっと見つめる。
 ただただ悲しみをたたえたその瞳に、あたしはなんとか判って欲しいと思って、言葉を紡ぎだす。

 「わたくしは、東宮様だから治療したり看病したりするのではないのです。
 お怪我をなさったのが元信様だとしても、主上だとしても、伊靖だとしても同じことをするでしょう。
 わたくしの知識や技術が誰かのお役に立てるなら、相手がどなたであれ同じなのです」
 
 元信様が目を伏せる。

 「主上には、わたくしは本当に、好意を示したこともございませんし何も申し上げてはおりません。
 元信様の妻になりたいと思っているということも、除目まではとのお約束でしたので、申し上げずにおります。
 それが主上の誤解を招いたのだとしたら、わたくしは一体、どうしたら」

 そこまで言ったところで、元信様に抱きしめられる。
 くるしい…

 「すみません。
 全部判っているんです、判っていても不安で…
 貴女の言葉が欲しくて…
 試すようなことばかり言ってしまう。
 自分が本当に情けないです」

 なんだ…
 まったく面倒な人だなあ。
 絶対、女慣れしてないよね。
 この王朝文化のまっただ中にいて、珍しい人なんじゃない?
 結婚後も、安心っちゃあ安心かな…

 きつく胸を圧迫されて、苦しくて少し気が遠くなる。
 元信様はあたしがぐったりしたのに気づいて、慌てて身体を離して自分の膝の上に横たえる。
 
 「姫、大丈夫ですか?!」
 焦りを浮かべてあたしを覗き込む元信様が、なんだか無性に愛しく思えてあたしは腕を伸ばして元信様の頭を引き寄せる。

 「大好き」
 耳元であたしが言うと、元信様は驚いたようにあたしを見る。
 その瞳にみるみる涙が溜まって、今度はそっと抱きしめた。

 「姫…
 ありがとう…
 その言葉があれば私は…」
 それから先言葉が続かないようで、あたしと元信様はしばらくじっと抱き合っていた。
 
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