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第八章 暗雲
19.内侍さんの謝罪
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内侍さんと共に、東宮の居室のある母屋へと向かう。
廊下は暗くて、マジで怖い。
内侍さんの持つ手燭と、所々に立っている小さな灯りが頼り。
「姫様…わたくし、姫様に謝らなければならないことが…」
歩きながら内侍さんが、小さな声で言う。
「何?」
あたしが訊くと、しばらく黙って歩いていたが、顔を上げて口を開いた。
「左近衛中将様に頼まれて、東宮様が最初においでになった時から、幾望会・庚申待・水無月会などさまざまな催しについて、密かに記録を取って居りました」
ああ、そうなんだ…
あたしは、今まで少し不思議に思っていたことが、腑に落ちた気がした。
いろんな催しの時、内侍さんがあまりあたしの傍にいなかったこと。
いつも筆を持っていたり、硯に墨がすぐにあったこと。
元信様が、いつの間にか居たり消えたりしていたこと。
「そうね…内侍なら、記録係にぴったりね。
文章も文字も上手だし、書くのも早いし、要点をまとめるのも優れているわ」
そこまで言って、あっと思った。
「あ…じゃあ『月子姫物語』は…」
内侍さんは、立ち止まりそうになる。
なんとか、あたしに歩調を合わせてまた歩き出した。
「そう、なのでございます。
最初は、単に頼まれた記録を書きおこしていたのですが、だんだん、物足りないというか、普通の家の一介の女房では一生出会えないような素晴らしい材料があるのに、書かないなんて勿体ない、と…」
なるほどね…
やっぱり、作家の才能があるんだな。
あたしはふふっと笑って「そうなのね。わたくしも、自分の話でなかったら、心躍らせて読んだことでしょうね」と呟いた。
自分の話だから気恥ずかしいし、あんなに良いことばっかりじゃないよ!って思いもあって、あんまりがっつり読めないんだけど。
「姫様…」
内侍さんは歩きながらすすりあげる。
「月子姫は主上を廃し奉る謀反の張本人とされる、東宮殿下を煽動した罪に問われるのよ。
ますます面白くなるわね」
あたしが自嘲気味に言うと、「それはありません!」と内侍さんは強く断言した。
「左近衛中将様と左大弁様のご兄弟が、主上の命でずっと暗躍しておられます。
左大弁様は最初、関白様の手の者でいらっしゃったのですが、姫様のまっすぐなご気性に打たれて、今では二重の諜報者であられます」
ええー…
お兄様は、元信様と違って器用なんだなぁ
元信様じゃあ絶対無理だわ。
東宮の居室の前まで来た。
広すぎるわこの家…
ふう、と息をついたとき、東宮の居室から誰かが飛び出してきた。
避ける暇もなく、あたしに体当たりしてくる。
「二の姫…」
あたしが驚いて受け止めると、二の姫は「お姉様…っ」とあたしを一瞬見て、身を翻し、北の対屋に向かって走って行ってしまった。
「お姫様っ」と小侍従さんが追いかけていく。
二の姫…?
あたしは呆然と見送る。
二の姫…泣いてた…?
廊下は暗くて、マジで怖い。
内侍さんの持つ手燭と、所々に立っている小さな灯りが頼り。
「姫様…わたくし、姫様に謝らなければならないことが…」
歩きながら内侍さんが、小さな声で言う。
「何?」
あたしが訊くと、しばらく黙って歩いていたが、顔を上げて口を開いた。
「左近衛中将様に頼まれて、東宮様が最初においでになった時から、幾望会・庚申待・水無月会などさまざまな催しについて、密かに記録を取って居りました」
ああ、そうなんだ…
あたしは、今まで少し不思議に思っていたことが、腑に落ちた気がした。
いろんな催しの時、内侍さんがあまりあたしの傍にいなかったこと。
いつも筆を持っていたり、硯に墨がすぐにあったこと。
元信様が、いつの間にか居たり消えたりしていたこと。
「そうね…内侍なら、記録係にぴったりね。
文章も文字も上手だし、書くのも早いし、要点をまとめるのも優れているわ」
そこまで言って、あっと思った。
「あ…じゃあ『月子姫物語』は…」
内侍さんは、立ち止まりそうになる。
なんとか、あたしに歩調を合わせてまた歩き出した。
「そう、なのでございます。
最初は、単に頼まれた記録を書きおこしていたのですが、だんだん、物足りないというか、普通の家の一介の女房では一生出会えないような素晴らしい材料があるのに、書かないなんて勿体ない、と…」
なるほどね…
やっぱり、作家の才能があるんだな。
あたしはふふっと笑って「そうなのね。わたくしも、自分の話でなかったら、心躍らせて読んだことでしょうね」と呟いた。
自分の話だから気恥ずかしいし、あんなに良いことばっかりじゃないよ!って思いもあって、あんまりがっつり読めないんだけど。
「姫様…」
内侍さんは歩きながらすすりあげる。
「月子姫は主上を廃し奉る謀反の張本人とされる、東宮殿下を煽動した罪に問われるのよ。
ますます面白くなるわね」
あたしが自嘲気味に言うと、「それはありません!」と内侍さんは強く断言した。
「左近衛中将様と左大弁様のご兄弟が、主上の命でずっと暗躍しておられます。
左大弁様は最初、関白様の手の者でいらっしゃったのですが、姫様のまっすぐなご気性に打たれて、今では二重の諜報者であられます」
ええー…
お兄様は、元信様と違って器用なんだなぁ
元信様じゃあ絶対無理だわ。
東宮の居室の前まで来た。
広すぎるわこの家…
ふう、と息をついたとき、東宮の居室から誰かが飛び出してきた。
避ける暇もなく、あたしに体当たりしてくる。
「二の姫…」
あたしが驚いて受け止めると、二の姫は「お姉様…っ」とあたしを一瞬見て、身を翻し、北の対屋に向かって走って行ってしまった。
「お姫様っ」と小侍従さんが追いかけていく。
二の姫…?
あたしは呆然と見送る。
二の姫…泣いてた…?
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