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第八章 暗雲
23.両片思い
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「うん…そういうことなのね。判ったわ。
だけど、右大臣家から暇を取ったら、もう二度と伊靖には会えなくなるかもしれないのよ。
それでもいいの?」
あたし意地悪だな…と思いながら訊く。
少輔さんの大きな瞳に、涙が溜まり、零れ落ちる。
「わ、ごめん、意地悪な質問だったわね」
あたしが慌てて謝ると、少輔さんは手で顔を覆って、首を横に振る。
「いいえ…わたくしもそれがどうしても思いきれず、今日までぐずぐずお屋敷に留まって居りました。
ですが、やはり、伊靖様と北の方様を毎日拝見するのは…」
つらいよね…
あたしは、手を伸ばして少輔さんの細い肩を撫でる。
少輔さんは、あたしが渡した懐紙で涙を拭いた。
顔を上げてあたしを見る。
「伊都子姫様は…わたくしの気持ちをご存知なのですね」
「うーんまあ、見てりゃ判るわよ。
結構、判りやすいわよ、あなた方」
あたしが言うと、少輔さんは真っ赤になってうつむき、懐紙をくしゃくしゃにした。
「女房の分際で、お仕えする若君を恋い慕うなど…
あるまじき行為であることは、重々承知いたしております」
「いや、でも、毎日いつも一緒にいるんだもの。
そういうこともあると思うわよ。
ここんちのお殿様だって、若いころ女房さんに手をつけて縫姫が生まれたんだし」
わざと蓮っ葉な言い方をすると、少輔さんはあたしを見つめ
「お優しい姫様…慰めてくださるのですね。ありがとうございます…」
と呟いて、また涙を零した。
こりゃ、少輔さんとだけ話しててもダメだな。
あたしは大きな声で式部さんを呼んだ。
伊靖君を、ここに連れてくるように頼む。
少輔さんは慌てたように腰を浮かす。
「姫様…それは、ご勘弁くださいまし。
わたくしはやっと、帰る決心をしたのでございます」
「まあまあ、いいから。座っていてちょうだい」
あたしはにこやかに、でも有無を言わせない態度で引き留める。
「姉上…お呼びですか」
伊靖君が及び腰で入ってくる。
「座って」
あたしは高圧的な態度で、少輔さんの横を指さす。
伊靖君は、少輔さんを見て気まずそうに少し離れたところに腰を下ろす。
「話は少輔から聞いたわ。
あなた本当に無神経ね」
しょっぱなから決めつける。
「なん…何を…いや、だって…」
伊靖君は目を剥き、何か言おうとするが言葉にならない様子。
「愛する少輔をずっと傍に置いておきたい気持ちは解るわ。
だけど、少輔の気持ちも考えてごらんなさいな。
慕うあなたと、あなたの北の方の新婚生活を見たいわけないでしょう」
「姉上っ!」
伊靖君は真っ赤になって大声を上げる。
少輔さんは驚いたように伊靖君を見る。
あれっ、この二人って、もしかしてお互いの気持ち判ってないわけ?
「って…えっ?
『慕うあなた』?」
伊靖君も、少輔さんを見る。
あのー、火がつきそうなほどの熱視線で見つめ合うの、やめてくださる?
あたしの方が恥ずかしくて逃げ出したくなるわっ
だけど、右大臣家から暇を取ったら、もう二度と伊靖には会えなくなるかもしれないのよ。
それでもいいの?」
あたし意地悪だな…と思いながら訊く。
少輔さんの大きな瞳に、涙が溜まり、零れ落ちる。
「わ、ごめん、意地悪な質問だったわね」
あたしが慌てて謝ると、少輔さんは手で顔を覆って、首を横に振る。
「いいえ…わたくしもそれがどうしても思いきれず、今日までぐずぐずお屋敷に留まって居りました。
ですが、やはり、伊靖様と北の方様を毎日拝見するのは…」
つらいよね…
あたしは、手を伸ばして少輔さんの細い肩を撫でる。
少輔さんは、あたしが渡した懐紙で涙を拭いた。
顔を上げてあたしを見る。
「伊都子姫様は…わたくしの気持ちをご存知なのですね」
「うーんまあ、見てりゃ判るわよ。
結構、判りやすいわよ、あなた方」
あたしが言うと、少輔さんは真っ赤になってうつむき、懐紙をくしゃくしゃにした。
「女房の分際で、お仕えする若君を恋い慕うなど…
あるまじき行為であることは、重々承知いたしております」
「いや、でも、毎日いつも一緒にいるんだもの。
そういうこともあると思うわよ。
ここんちのお殿様だって、若いころ女房さんに手をつけて縫姫が生まれたんだし」
わざと蓮っ葉な言い方をすると、少輔さんはあたしを見つめ
「お優しい姫様…慰めてくださるのですね。ありがとうございます…」
と呟いて、また涙を零した。
こりゃ、少輔さんとだけ話しててもダメだな。
あたしは大きな声で式部さんを呼んだ。
伊靖君を、ここに連れてくるように頼む。
少輔さんは慌てたように腰を浮かす。
「姫様…それは、ご勘弁くださいまし。
わたくしはやっと、帰る決心をしたのでございます」
「まあまあ、いいから。座っていてちょうだい」
あたしはにこやかに、でも有無を言わせない態度で引き留める。
「姉上…お呼びですか」
伊靖君が及び腰で入ってくる。
「座って」
あたしは高圧的な態度で、少輔さんの横を指さす。
伊靖君は、少輔さんを見て気まずそうに少し離れたところに腰を下ろす。
「話は少輔から聞いたわ。
あなた本当に無神経ね」
しょっぱなから決めつける。
「なん…何を…いや、だって…」
伊靖君は目を剥き、何か言おうとするが言葉にならない様子。
「愛する少輔をずっと傍に置いておきたい気持ちは解るわ。
だけど、少輔の気持ちも考えてごらんなさいな。
慕うあなたと、あなたの北の方の新婚生活を見たいわけないでしょう」
「姉上っ!」
伊靖君は真っ赤になって大声を上げる。
少輔さんは驚いたように伊靖君を見る。
あれっ、この二人って、もしかしてお互いの気持ち判ってないわけ?
「って…えっ?
『慕うあなた』?」
伊靖君も、少輔さんを見る。
あのー、火がつきそうなほどの熱視線で見つめ合うの、やめてくださる?
あたしの方が恥ずかしくて逃げ出したくなるわっ
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