三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
222 / 307
第九章 二度目の死と伊都子姫

3.都を抜けて

しおりを挟む
 丹波は都の大路の、人込みの中を縫って進んでいく。
 「ちくしょう…今日は市か」
 義光が呟く。

 小雨の降りしきる中、賑やかに市がたっている。
 物売りの声、何かを買う声、威勢のいい声が聴こえる。

 こんな時でなければ、とても心躍る風景だったろう、と思う。
 だけど今日は困る。馬を思うように進ませられない。
 
 胃が絞られるような焦燥感の中、じりじりと雑踏を抜けて、ようやっと市場から脱出すると、義光は丹波に一鞭くれてスピードを上げた。

 あたしは熱が上がり切ったのか、寒さは治まったが今度は関節が軋むような痛みと酷い頭痛で身体に力が入らない。
 義光がぎゅっとあたしの身体を自分の身体に押し付けて、何とか安定させてくれる。

 「姫…無理しないでください、今ならまだ引き返したほうが早い」
 市女笠の上から、義光が心配そうに声をかけてくる。

 あたしはもう、身体がつらくて何も考えられず、ただただ首を横に振る。
 
 また悪寒が背筋をのぼってきた。
 まだ、熱が上がるのか…

 周りの風景から町屋が消え、ひんやりとした空気に包まれてきた。
 道が次第に悪くなり、揺れが酷くなっていく。
 山の中腹にある寺を目指して、丹波は坂道を登りはじめる。

 標高が高いわけでも、自分の足で歩いているわけでもないのに、胸が苦しい。
 呼吸が早くなる。
 
 また身体が震えだした。
 寒い。

追いついてきたらしい實時さんに、
 「先に神護寺に行って、杉原義光と伊都子姫が東宮殿下の出家をお止めしに来たと、伝えておけ。
 伊都子姫が高熱なので、看病の準備をしておいてくれるようにと住持に言っておいてくれ」
 と命令する。

 實時さんは「はっ!」と言って、馬のスピードを上げて走り去っていった。

 「姫、もう少しですよ、頑張って下さい」
 と義光が声をかけてきて、市女笠を外して投げ捨てる。

 片手であたしの身体を支えながら、もう片方の手綱を持った手で自分の直衣の前をはだけて、あたしを中に抱きこみ、直衣で包むように抱きしめる。
 
 温かい…
 義光の体温を感じ、心臓の音を聞いて、あたしは安心する。

 「月子姫…すごい熱いよ…大丈夫なのか?
 何でこんなことに…殿下の為になぜそこまでする…?」

 半分泣いているような、義光の声がする。
 ごめんね、心配かけて。
 大丈夫だよ、と言おうとするのだけど、身体が動かない。声が出せない。

 自分の身体ではないみたい。
 そう思って、はっとした。

 元々、あたしの身体ではないんだよ。
 伊都子姫の身体に、あたしの魂が入り込んだだけの、借り物だったんだよ。

 出て行けって、言ってるの?
 伊都子姫…
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

処理中です...