223 / 307
第九章 二度目の死と伊都子姫
4.神護寺
しおりを挟む
想像していたより険しい山道を登っていく。
参道とは言え、都の外れ、殆ど整備されていないらしい。
義光の乗馬の腕は、東宮が言っていた通りとても上手だと思う。
片手にあたしを抱き、片手で手綱を持って丹波を操って、雨に濡れて滑りやすくなっている道をなるべく段差のないところ選んで登っていく。
確かにあたしの腕で淡香花に乗って、というのは無理だったな…
ありがとう、いつもあたしのワガママ聞いてくれて。
「姫、頑張って、もうすぐだから」
時折声をかけてくれる。
あたしはもう頷く気力もなく、荒い呼吸を繰り返しながらただ運ばれてゆく。
「若!」と遠くで声が聴こえ「實時!」と大声で応える。
實時さんが走ってきて、丹波の食みを取り、急ぎ足で牽いていく。
義光は手綱を操らなくて良くなって、あたしをぎゅっと抱きしめ、安定させる。
「もう着きますよ、東宮殿下がお迎えに出て居られます。
大丈夫、剃髪はなさって居られない」
と直衣越しに、あたしに優しく語りかける。
「月子姫!」と東宮の大きな声が聴こえる。
丹波が歩みを止め、ぶるぶると大きく鼻を鳴らす。
「民部大輔…ありがとう」
東宮が言って、義光は直衣の前を開け、馬上からあたしを東宮に慎重に渡す。
「月子姫が、おひとりで淡香花に乗ってここまでいらっしゃろうとしていたので、お連れしました」
小雨に濡れそぼった東宮は、あたしを抱きしめて、その場にしゃがみ込む。
「姫…なんて人だ…
あなたは何と…愛しい人だ…」
繰り返し呟く。
馬から降りた義光は直衣を整えるのも忘れたようにあたしと東宮を見つめていたが、つらそうに顔を背けた。
「殿下…月子姫は高熱を発していらっしゃいます。
早く…お医師を」
横を向いたまま、絞り出すように言葉を吐く。
「寺の中へ!
褥の準備ができております!」
と知らない声が叫んでいる。
あたしは東宮から誰かに抱きかかえ直され、冷たい雨の降る外から建物の中に運ばれた。
東宮…足の怪我は大丈夫なの?
聞きたいけれど、全身に鉛が詰め込まれたように熱く重く、関節という関節が軋みを上げて痛み、呼吸が苦しくて、瞼すら開けられない。
柔らかい布団に寝かされて、身体を清められ、着替えをさせられる。
あたしは何をされても、呻くことしかできない。
とにかく苦しい。息ができない。
高熱に浮かされ、はっはっと短い呼吸を繰り返すあたしに、「肺腑が…やられているかと…」医者が暗い声で呟いている。
「助けてくれ!頼む!何でもするから。
望むものは何でも与えよう!」
東宮の必死な声が聴こえる。
参道とは言え、都の外れ、殆ど整備されていないらしい。
義光の乗馬の腕は、東宮が言っていた通りとても上手だと思う。
片手にあたしを抱き、片手で手綱を持って丹波を操って、雨に濡れて滑りやすくなっている道をなるべく段差のないところ選んで登っていく。
確かにあたしの腕で淡香花に乗って、というのは無理だったな…
ありがとう、いつもあたしのワガママ聞いてくれて。
「姫、頑張って、もうすぐだから」
時折声をかけてくれる。
あたしはもう頷く気力もなく、荒い呼吸を繰り返しながらただ運ばれてゆく。
「若!」と遠くで声が聴こえ「實時!」と大声で応える。
實時さんが走ってきて、丹波の食みを取り、急ぎ足で牽いていく。
義光は手綱を操らなくて良くなって、あたしをぎゅっと抱きしめ、安定させる。
「もう着きますよ、東宮殿下がお迎えに出て居られます。
大丈夫、剃髪はなさって居られない」
と直衣越しに、あたしに優しく語りかける。
「月子姫!」と東宮の大きな声が聴こえる。
丹波が歩みを止め、ぶるぶると大きく鼻を鳴らす。
「民部大輔…ありがとう」
東宮が言って、義光は直衣の前を開け、馬上からあたしを東宮に慎重に渡す。
「月子姫が、おひとりで淡香花に乗ってここまでいらっしゃろうとしていたので、お連れしました」
小雨に濡れそぼった東宮は、あたしを抱きしめて、その場にしゃがみ込む。
「姫…なんて人だ…
あなたは何と…愛しい人だ…」
繰り返し呟く。
馬から降りた義光は直衣を整えるのも忘れたようにあたしと東宮を見つめていたが、つらそうに顔を背けた。
「殿下…月子姫は高熱を発していらっしゃいます。
早く…お医師を」
横を向いたまま、絞り出すように言葉を吐く。
「寺の中へ!
褥の準備ができております!」
と知らない声が叫んでいる。
あたしは東宮から誰かに抱きかかえ直され、冷たい雨の降る外から建物の中に運ばれた。
東宮…足の怪我は大丈夫なの?
聞きたいけれど、全身に鉛が詰め込まれたように熱く重く、関節という関節が軋みを上げて痛み、呼吸が苦しくて、瞼すら開けられない。
柔らかい布団に寝かされて、身体を清められ、着替えをさせられる。
あたしは何をされても、呻くことしかできない。
とにかく苦しい。息ができない。
高熱に浮かされ、はっはっと短い呼吸を繰り返すあたしに、「肺腑が…やられているかと…」医者が暗い声で呟いている。
「助けてくれ!頼む!何でもするから。
望むものは何でも与えよう!」
東宮の必死な声が聴こえる。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる