三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第九章 二度目の死と伊都子姫

4.神護寺

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 想像していたより険しい山道を登っていく。
 参道とは言え、都の外れ、殆ど整備されていないらしい。

 義光の乗馬の腕は、東宮が言っていた通りとても上手だと思う。
 片手にあたしを抱き、片手で手綱を持って丹波を操って、雨に濡れて滑りやすくなっている道をなるべく段差のないところ選んで登っていく。

 確かにあたしの腕で淡香花に乗って、というのは無理だったな…
 ありがとう、いつもあたしのワガママ聞いてくれて。

 「姫、頑張って、もうすぐだから」
 時折声をかけてくれる。
 あたしはもう頷く気力もなく、荒い呼吸を繰り返しながらただ運ばれてゆく。
 
 「若!」と遠くで声が聴こえ「實時!」と大声で応える。
 實時さんが走ってきて、丹波の食みを取り、急ぎ足で牽いていく。
 
 義光は手綱を操らなくて良くなって、あたしをぎゅっと抱きしめ、安定させる。
 「もう着きますよ、東宮殿下がお迎えに出て居られます。
 大丈夫、剃髪はなさって居られない」
 と直衣越しに、あたしに優しく語りかける。

 「月子姫!」と東宮の大きな声が聴こえる。
 丹波が歩みを止め、ぶるぶると大きく鼻を鳴らす。

 「民部大輔…ありがとう」
 東宮が言って、義光は直衣の前を開け、馬上からあたしを東宮に慎重に渡す。
 「月子姫が、おひとりで淡香花に乗ってここまでいらっしゃろうとしていたので、お連れしました」

 小雨に濡れそぼった東宮は、あたしを抱きしめて、その場にしゃがみ込む。
 「姫…なんて人だ…
 あなたは何と…愛しい人だ…」
 繰り返し呟く。
 馬から降りた義光は直衣を整えるのも忘れたようにあたしと東宮を見つめていたが、つらそうに顔を背けた。
 
 「殿下…月子姫は高熱を発していらっしゃいます。
 早く…お医師を」
 横を向いたまま、絞り出すように言葉を吐く。

 「寺の中へ!
 褥の準備ができております!」
 と知らない声が叫んでいる。

 あたしは東宮から誰かに抱きかかえ直され、冷たい雨の降る外から建物の中に運ばれた。

 東宮…足の怪我は大丈夫なの?
 聞きたいけれど、全身に鉛が詰め込まれたように熱く重く、関節という関節が軋みを上げて痛み、呼吸が苦しくて、瞼すら開けられない。

 柔らかい布団に寝かされて、身体を清められ、着替えをさせられる。
 あたしは何をされても、呻くことしかできない。
 とにかく苦しい。息ができない。

 高熱に浮かされ、はっはっと短い呼吸を繰り返すあたしに、「肺腑が…やられているかと…」医者が暗い声で呟いている。
 
 「助けてくれ!頼む!何でもするから。
 望むものは何でも与えよう!」
 東宮の必死な声が聴こえる。
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