三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第九章 二度目の死と伊都子姫

5.重篤な容態

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 視界がはっきりしたりぼやけたりする。
 耳鳴りがして、ここにはいない人の声が聴こえたりする。

 「も…とのぶ…さま…」
 あたしは、近づいたり離れたりする、元信様の笑顔に向かって必死に呼びかける。
 
 元信様!
 苦しい、助けて!

 「姫、頑張ってくれ!
 もうすぐ左近衛中将が来るから」
 あたしの手を握りしめ、東宮が枕元で叫ぶように言う。

 「あんなふみを書くのではなかった。
 黙って出家すればいいものを、月子姫への未練が断ち切れずに…
 私を思い出してほしいと願ってしまった」

 「まさかこのようなことになろうとは…
 月子姫、私が悪かった。
 私があなたの身代わりになりたい」
 
 あたしのぼやけた視界には、元信様の姿しか見えない。
 元信様、元信様!
 
 「姫!」
 幻聴ではない、本物の元信様の声。

 あたしは声のする方へ、何とか顔を向ける。
 身体中の力を振り絞って、瞼を開ける。

 「主上に許可を頂いて、典薬のかみに同道してもらいました。
 右大臣殿と治部大夫も一緒です。
 あとから主上も、他の公達も来ます」
 あたしの手を握りながら、東宮に言っている。

 元信様の反対側に偉そうな口髭を蓄えた、でも優しそうな目のおじさんが座って、あたしの身体や瞳やいろんなところを見た。
 
 「肺腑が…酷い炎症を起こしています。
 他の臓器は大丈夫そうだが…薬が飲めるかどうか。
 気管に入れば窒息の危険性がある」

 重苦しく言って、自ら薬の準備を始める。

 苦しい。息ができない。
 痛みで身体も頭もバラバラになりそう。
 誰でもいいから助けてほしい。

 「姫…どうしてこんなことに…」
 元信様はあたしの額の汗を懸命に拭いながら、涙を零す。

 「私のせいなのだ。
 今朝、姫に出家を匂わせる文を送った。
 姫は、この雨の中、馬で私の出家を止めに来てくれたのだ…」
 東宮は顔を覆って声を震わせる。

 「いえ、私が、東宮殿下が出家を言いだされたらお止めするように、姫に言ったのです。
 姫はそれを実行してくださった…
 あんなことを言うのではなかった。
 許してください姫…」
 褥の裾に伏して泣き崩れる。
 
 「もと…のぶさ…ま…」
 あたしは必死で声を絞り出す。

 「はい!姫!ここにおりますよ」
 元信様は涙でぐしゃぐしゃになった顔であたしの顔を覗き込む。

 「わ…らって…」
 笑顔が大好きなの。
 あたしは、あなたの、控えめな、はにかむような笑顔が大好き。

 えっ…と元信様は一瞬考え、あたしの言葉の意味を理解すると、一生懸命笑顔を作ってくれる。

 「あり…がと」
 大好き、と言いたかったが、意識が暗闇に引きずり込まれる。

 「姫!!」
 元信様の絶叫が聞こえる。
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