三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第九章 二度目の死と伊都子姫

21.主上の別宅

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「なぜ…主上が…」
 こんな都の外れまで。

 元信様に抱きかかえられたまま部屋の中へ入り、主上の隣に降ろされて、あたしは主上の顔をまじまじと見つめてしまった。
 主上は気まずそうに扇子を開いて顔を隠す。
 反対側の隣で、元信様が噴き出した。

 すみません、慎みの無い女なので…
 普通、女性の方がこんなに殿方の顔を見つめたりしないんだよね、しかも公衆の面前で。

 「東宮は…ちょっと来られない。
 今は蟄居の身で、御所から出られないのだ」
 主上は辛そうに言う。

 あたしは心臓がぎゅっと鷲掴みにされるような気がした。
 東宮…

 あたしは輿に乗って揺られ続けた疲れもあり、床に手をつく。
 元信様が脇息を持ってきてくれた。
 有り難く体重を預けて、ほっと息をつく。

 主上が背をさすってくれる。
 「お疲れであろう…
 皆がどうしても、月子姫のお迎えと精進落としをしたいと申すので、私の母から貰った別宅を開放したのだよ」

 「何をおっしゃいますやら…
 主上がどうしても月子姫をお迎えしたいと、強硬にこの場を設けさせたのでしょうよ…」
 右近衛大将様が呆れたように言う。

 「東宮殿下の悔しがりようといったら、そりゃあ大変なものでしたよ。
 家人けにんに身をやつしてでもここに来かねない勢いでした」
 権中納言様が笑いながら席に着く。
 
 あたしは思わず周りを見回す。
 本当にいそうで怖い。
 あの人ならやりかねない。

 主上はごほんと咳をしてごまかし、背を伸ばして揃った皆を見回す。
 
 「皆、朝早くからご苦労であった。
 月子姫が無事に都へ戻ることができて、これ以上のめでたいことはない。
 今、少し宮中がごたごたしていて、東宮・左大弁・左衛門督がここへ来られない」

 少しうつむいて、また顔を上げて続ける。
 「今日は短い時間ではあるが、月子姫の無事を寿ぎ、皆の働きをねぎらいたいと思う。
 乾杯」

 「乾杯」
 あたしたちは皆、口を揃える。

 わお、唐揚げがあるっ!
 醤油と黒砂糖で煮含めたあわびも!

 あたしは嬉しくなった。
 主上がそんなあたしを見て微笑む。

 「今日は、右大臣家の厨司長をお借りしてきた。
 月子姫のお好きなものを作ってもらうように頼んだ。
 私でも初めて見るような料理がたくさんあるな」

 主上は珍しそうに膳の上の料理を眺め、いちいち質問してくる。
 他の公達もこれはなんだ、意外と美味しいな、などと賑やかに話しながら食べている。

 ああ…都に帰ってきたんだ…
 あたしは皆を眺めながら思った。

 「月子姫、お身体の調子はいかがですか」
 盃を置いた主上が優しい声で訊いてくる。
 
 「ありがとうございます。
 ずいぶん、良くなりましたわ」
 あたしが微笑むと、主上はあたしの頬に触れて
 「しかしかなり痩せられましたね…
 都で美味しいものをたくさん召し上がって、回復に努めてくださいね」
 と心配そうに言った。

 え、そう?
 そんなに痩せた??

 あたしは嬉々として箸を取る。
 じゃあ、いっぱい食べちゃおう!
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