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第九章 二度目の死と伊都子姫

25.あたしサイドの経緯

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 あたしの方の時間経過。

 微睡むような睡眠だったけど結構長いこと寝て、幾分スッキリして目を覚ますと、式部さんや内侍さん、衛門さんがバタバタと部屋の中を片付けたり、侍女さんに指示して新しい家具を運び込んだりしている。
 
 「なに?どうしたの?」
 あたしがびっくりして御帳台の中から声をかけると、式部さんが「あ、お目覚めでございますか。じゃあ、ここの片付けと姫様の湯浴ゆあみも致しましょう」と言って、新たに侍女さんに指示を出す。

 いや、質問の答えになってないんすけど…
 戸惑うあたしに、内侍さんが「お殿様からのご指示で。今夜、左近衛中将様がいらっしゃるので準備をするようにと」と微笑む。

 あ、…そうですか。
 お殿様も了承済みってことなのね。

 それからあたしは、女房さん達のなされるがまま、人形のようにあちらへ移動させられこちらで着替えさせられ、座らせられて「お待ちください」と言われてしまった。

 落ち着かない…
 彼氏が訪ねてくるのを家族中で待たれてる感じが。
 
 しかもこの場合、ただ訪ねてくるだけじゃない、なんつうの、身体の関係を持つってことがもう最初から織り込み済みなわけで…
 
 早い話が、こっぱずかしい!!

 貴族の方々の、思考がよく判らない。
 まあ、貴族の婚姻なんて家同士の繋がり、政治的な意味合いが強いんだから、仕方ないのかもしれないけど…
 伊靖君もこういう雰囲気の中、内大臣の姫君と…したのかしら。

 日も暮れ、蔀戸が一部を除いて降ろされた。
 御帳台に大殿油が灯される。

 あの、蔀戸の開いているところから、元信様が来る…

 あたしはなんかドキドキして、座り直す。
 食事も一緒に摂ろうと、料理長に言って準備してもらった。

 料理長は今日、都の端まで来て精進落としのご馳走を作ってくれて、疲れているだろうに快諾してくれた。
 「左近衛中将様と姫様の門出のお祝い膳でございますね。
 お任せください」

 イヤ、普通の夕食で良いですけど…
 あたしは照れて、頬を手で押さえた。


 それから、何の連絡もないまま、夜更けになった。
 女房さん達、お殿様、伊靖君が心配して、文を宮中に送ったりしたが、返事がない。

 とうとう伊靖君が
 「ちょっと様子を見てきます、何か宮中であったのかもしれない」
 と、白馬おうまに乗って斉矩まさのりさんと共に宮殿に様子を見に行ってくれた。

 あたしは、さっきとは違う意味で落ち着かなかった。
 元信様に何かあったのかな…
 
  
 そう時間も経たないうちに、斉矩さんが馬をかっ飛ばして戻ってきた。
 「申し上げます!
 東宮御所に侵入された右兵衛督うひょうえのかみ様を左近衛中将様が捉えられて、今、宮中にて主上やその他の公達と共に尋問中とのことです!
 若は宮中に留まって、詮議に参加され、事の推移を見守りつつまたご連絡なさるそうです」

 えっ?
 あたしとお殿様は顔を見合わせる。

 なんかツッコミどころが満載で、よく判らないよ!
 
 右兵衛督、って誰?何者?
 どうして東宮御所に元信様がいたの?
 で、何で宮中で詮議なの??

 「儂も参内する」
 とお殿様は急いで部屋を出て行った。

 斉矩さんは「では、私も戻ります。また、ご報告に参ります」と言って馬に乗って戻っていった。

 どーなってるのよ!
 誰か、おばかなあたしにも解るように説明して!
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