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第十章 裁きと除目と薫物合わせ
6.THEがつく人
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元信様からの手紙は、ちょっと切ない内容だった。
左大臣が太政大臣に引っ張られる感じで降格、有体に言えば失脚して左遷が決まったそうで。
それにお兄様と共に加担したんだから、複雑な心境にあるのは当然だろう。
あたしも無関係ではないので、なんとも慰めの言葉が見つからなかった。
筆を執る。
うーん…何て書こうかな。
この時代の人って本当に筆まめ。
息をするようにさらさらと雅な言葉が出てくる。
とりあえず、薫物合わせのことを書く。
元信様も参加するのかな…
見物の人も多いみたいだからな。
緊張するよ~
封をして、薫りを焚きしめた絹布で一部を斜めに包んでみる。
おお、結構綺麗じゃん。
あたしもちょっとは平安人らしくなってきたかしら。
家人に頼んで、宮中の元信様に届けてもらう。
そのとき、部屋の外がなんかざわざわと騒がしくなった。
あれ?もう伊靖君かお殿様が帰ってきたのかな?
「月子姫!」
先触れの声より先に声がして、訪いより先に部屋に飛び込んできたのは、
東宮!
なんで…
と思う間もなく、あたしは苦しいほどに抱きしめられる。
ちょっと!筆片付けようとしてて、まだ握ってるんだけど!
あー、ヤダ!墨が顔についちゃったじゃん~~~
「東…宮様…おかお…」
あたしが苦しくて切れ切れに言うと、慌てたように腕の力を緩める。
「え?顔に何か?」
判っていないのか、きょとんとする。
あ、久しぶり、このきょとん顔。
あたしは何だか嬉しくなって笑いだす。
式部さんが急いで、濡らした布を持ってきてあたしに手渡す。
ええー、式部さんが拭いたげてよー
あたしは筆を置き、布で東宮の顔についた墨をふき取る。
「姫、くすぐったい!」と逃げ回る。
大人しくしてなさいよっ!みっともないわよその顔!
あたしは容赦なくごしごし拭く。
よし、綺麗になった。
ほっぺつるつるだねえ…髭とかどうしてるの?
「治療の時といい、姫は荒っぽい…」
頬をさすりながら、東宮はぼやく。
うるさい、甘やかされすぎてんのよあなたは小さい時から!
「どうして、こんなところにいらっしゃるんですの?
大臣任免と除目はこれからでございましょう」
あたしは当然の疑問を口にする。
元信様の手紙にも、除目と大臣任命式の後、饗宴があるから、今日は伺えるとしても深更になりそうだと書いてあったのに…
「私には関係ないからな」
東宮は扇子で自分の頬を指して嘯く。
まあ、そりゃそうでしょうけど…
東宮は東宮のままでいられることになったんでしょうけど。
でもだからって、抜け出してきたりしていいの?
「神護寺で別れて以来、月子姫に会いたくて、その思いが募って病になりそうだった。
蟄居を言い渡されて、月子姫に会えないと思うのが一番つらかった」
あたしを見つめて切なく呟き、手を伸ばして優しく抱きしめる。
「また会うことができてこれ以上の幸福はない。
会いたかったよ…」
東宮の香りがする。
なんか、久しぶりで懐かしい…
だけど、この格好はまずい。
二の姫が見たら悲しむ。
あたしは両手でぐいっと東宮の胸を押して身を離し、わざと素気無く言う。
「はいはい、今日はシチューでございますわよ。
東宮様から頂戴しました乳牛の牧江が、とてもよく乳を出してくれますの」
東宮は呆気にとられたようにあたしを見ていたが、やがて大笑いしだす。
「…やっぱり、月子姫はこうでなくてはね!
私はやっと自由になれた気がしますよ」
左大臣が太政大臣に引っ張られる感じで降格、有体に言えば失脚して左遷が決まったそうで。
それにお兄様と共に加担したんだから、複雑な心境にあるのは当然だろう。
あたしも無関係ではないので、なんとも慰めの言葉が見つからなかった。
筆を執る。
うーん…何て書こうかな。
この時代の人って本当に筆まめ。
息をするようにさらさらと雅な言葉が出てくる。
とりあえず、薫物合わせのことを書く。
元信様も参加するのかな…
見物の人も多いみたいだからな。
緊張するよ~
封をして、薫りを焚きしめた絹布で一部を斜めに包んでみる。
おお、結構綺麗じゃん。
あたしもちょっとは平安人らしくなってきたかしら。
家人に頼んで、宮中の元信様に届けてもらう。
そのとき、部屋の外がなんかざわざわと騒がしくなった。
あれ?もう伊靖君かお殿様が帰ってきたのかな?
「月子姫!」
先触れの声より先に声がして、訪いより先に部屋に飛び込んできたのは、
東宮!
なんで…
と思う間もなく、あたしは苦しいほどに抱きしめられる。
ちょっと!筆片付けようとしてて、まだ握ってるんだけど!
あー、ヤダ!墨が顔についちゃったじゃん~~~
「東…宮様…おかお…」
あたしが苦しくて切れ切れに言うと、慌てたように腕の力を緩める。
「え?顔に何か?」
判っていないのか、きょとんとする。
あ、久しぶり、このきょとん顔。
あたしは何だか嬉しくなって笑いだす。
式部さんが急いで、濡らした布を持ってきてあたしに手渡す。
ええー、式部さんが拭いたげてよー
あたしは筆を置き、布で東宮の顔についた墨をふき取る。
「姫、くすぐったい!」と逃げ回る。
大人しくしてなさいよっ!みっともないわよその顔!
あたしは容赦なくごしごし拭く。
よし、綺麗になった。
ほっぺつるつるだねえ…髭とかどうしてるの?
「治療の時といい、姫は荒っぽい…」
頬をさすりながら、東宮はぼやく。
うるさい、甘やかされすぎてんのよあなたは小さい時から!
「どうして、こんなところにいらっしゃるんですの?
大臣任免と除目はこれからでございましょう」
あたしは当然の疑問を口にする。
元信様の手紙にも、除目と大臣任命式の後、饗宴があるから、今日は伺えるとしても深更になりそうだと書いてあったのに…
「私には関係ないからな」
東宮は扇子で自分の頬を指して嘯く。
まあ、そりゃそうでしょうけど…
東宮は東宮のままでいられることになったんでしょうけど。
でもだからって、抜け出してきたりしていいの?
「神護寺で別れて以来、月子姫に会いたくて、その思いが募って病になりそうだった。
蟄居を言い渡されて、月子姫に会えないと思うのが一番つらかった」
あたしを見つめて切なく呟き、手を伸ばして優しく抱きしめる。
「また会うことができてこれ以上の幸福はない。
会いたかったよ…」
東宮の香りがする。
なんか、久しぶりで懐かしい…
だけど、この格好はまずい。
二の姫が見たら悲しむ。
あたしは両手でぐいっと東宮の胸を押して身を離し、わざと素気無く言う。
「はいはい、今日はシチューでございますわよ。
東宮様から頂戴しました乳牛の牧江が、とてもよく乳を出してくれますの」
東宮は呆気にとられたようにあたしを見ていたが、やがて大笑いしだす。
「…やっぱり、月子姫はこうでなくてはね!
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