三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
252 / 307
第十章 裁きと除目と薫物合わせ

6.THEがつく人

しおりを挟む
 元信様からの手紙は、ちょっと切ない内容だった。
 左大臣が太政大臣に引っ張られる感じで降格、有体に言えば失脚して左遷が決まったそうで。
 
 それにお兄様と共に加担したんだから、複雑な心境にあるのは当然だろう。
 あたしも無関係ではないので、なんとも慰めの言葉が見つからなかった。

 筆を執る。
 うーん…何て書こうかな。
 この時代の人って本当に筆まめ。
 息をするようにさらさらと雅な言葉が出てくる。

 とりあえず、薫物合わせのことを書く。
 元信様も参加するのかな…
 見物の人も多いみたいだからな。
 緊張するよ~

 封をして、薫りを焚きしめた絹布で一部を斜めに包んでみる。
 おお、結構綺麗じゃん。
 あたしもちょっとは平安人らしくなってきたかしら。
 家人けにんに頼んで、宮中の元信様に届けてもらう。

 そのとき、部屋の外がなんかざわざわと騒がしくなった。
 あれ?もう伊靖君かお殿様が帰ってきたのかな?

 「月子姫!」
 先触れの声より先に声がして、訪いより先に部屋に飛び込んできたのは、

 東宮!

 なんで…
 と思う間もなく、あたしは苦しいほどに抱きしめられる。

 ちょっと!筆片付けようとしてて、まだ握ってるんだけど!
 あー、ヤダ!墨が顔についちゃったじゃん~~~

 「東…宮様…おかお…」
 あたしが苦しくて切れ切れに言うと、慌てたように腕の力を緩める。
 
 「え?顔に何か?」
 判っていないのか、きょとんとする。

 あ、久しぶり、このきょとん顔。
 あたしは何だか嬉しくなって笑いだす。

 式部さんが急いで、濡らした布を持ってきてあたしに手渡す。
 ええー、式部さんが拭いたげてよー

 あたしは筆を置き、布で東宮の顔についた墨をふき取る。
 「姫、くすぐったい!」と逃げ回る。
 大人しくしてなさいよっ!みっともないわよその顔!

 あたしは容赦なくごしごし拭く。
 よし、綺麗になった。
 ほっぺつるつるだねえ…髭とかどうしてるの?
 
 「治療の時といい、姫は荒っぽい…」
 頬をさすりながら、東宮はぼやく。
 うるさい、甘やかされすぎてんのよあなたは小さい時から!

 「どうして、こんなところにいらっしゃるんですの?
 大臣任免と除目はこれからでございましょう」
 あたしは当然の疑問を口にする。

 元信様の手紙にも、除目と大臣任命式の後、饗宴があるから、今日は伺えるとしても深更になりそうだと書いてあったのに…

 「私には関係ないからな」
 東宮は扇子で自分の頬を指してうそぶく。

 まあ、そりゃそうでしょうけど…
 東宮は東宮のままでいられることになったんでしょうけど。
 でもだからって、抜け出してきたりしていいの?

 「神護寺で別れて以来、月子姫に会いたくて、その思いが募って病になりそうだった。
 蟄居を言い渡されて、月子姫に会えないと思うのが一番つらかった」

 あたしを見つめて切なく呟き、手を伸ばして優しく抱きしめる。
 「また会うことができてこれ以上の幸福はない。
 会いたかったよ…」

 東宮の香りがする。
 なんか、久しぶりで懐かしい…
 
 だけど、この格好はまずい。
 二の姫が見たら悲しむ。
 
 あたしは両手でぐいっと東宮の胸を押して身を離し、わざと素気無く言う。
 「はいはい、今日はシチューでございますわよ。
 東宮様から頂戴しました乳牛の牧江が、とてもよく乳を出してくれますの」

 東宮は呆気にとられたようにあたしを見ていたが、やがて大笑いしだす。
 「…やっぱり、月子姫はこうでなくてはね!
 私はやっと自由になれた気がしますよ」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...