三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第十一章 露顕と三日夜の餅

14.新居の厨房

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 厨に行ってみたいな。
 まだどこに何があるのかよく判っていないので、とりあえず廊下を端に向かって歩いて行く。
 今日は、いつもついてきてくれる侍女さんが忙しいということで、一人で出てきた。

 長く広い廊下の端まで行くと、北の対屋に向かう渡殿わたどのが見える。
 だいたいこういう作りの屋敷は、厨房は北側にあるみたいなのでそちらへ向かう。

 北の対屋は、すごい混雑だった。
 大勢の人が行きかっている。

 何?
 廊下で市でも開いてるの??

 あたしは人を避けながら歩き(誰もあたしを北の方だとは思ってない様子だった)、北の対屋の廊下からさらに別の建物に移動する。

 「あ、姫様!」
 例によって、ゆらちゃんが明るく迎えてくれる。
 まな板に向かって何かを刻んでいたようだ。

 「ゆらちゃん、久しぶり!」
 あたしはゆらちゃんの笑顔が嬉しくて、大きな声で言った。
 
 厨房のスタッフが木のベンチのような物を持ってきて、据えてくれる。
 実家の太政大臣家と同じように、床は水はけが良いように細かい砂が敷き詰められ、その上に簀子が隙間なく置かれていて、清潔感があった。

 火力調節器とオーブン、フライパンなども持って来てある。
 鍛冶師さんと棟梁が、あたしが居なくなってとても寂しがっているそうで、あたしはまた頼みたいことがあるから来てくれるよう、言伝を頼んだ。

 厨司長とスタッフは、火の前に陣取り、張り切って何か作業している。
 「若いは集まっているか?」
 厨司長が大声で訊き、外にいる人から「集まってきています。臼も四基、届きました」と大声が返ってきた。

 「そう言えば、厨司長…鶏卵のことだけど」
 あたしは忙しそうな厨司長に話しかける。

 「はい!」
 厨司長は手を休めて額の汗を手拭いで拭いて、あたしの方へ来た。

 「あなたは卵を料理することについて、どう思う?
 心理的に抵抗ある?」
 あたしは気になっていたことを訊いた。

 いくら、偉い人が命令したからって、宗教的な理由で食べないものを調理させられるのは、どうしても嫌ってこともあるかもしれない。
 無理強いはしたくない、と思って今までお願いしなかったのだ。

 しかし若い厨司長はあっけらかんと「あ、大丈夫でございます」とにっこりした。
 「姫様が以前から鶏卵を召し上がりたいと仰せでしたのは存じておりましたし。
 太政大臣家の厨司長殿は嫌がって居られましたが…私は全然、抵抗はございません。
 ここに居る者共は皆、姫様の創作料理に心酔しておりますから」

 あ、そうなんだ。
 あたしはほっとした。
 「ありがとう。
 わたくしのみならず、東宮様や主上までがあなた方に無理をおっしゃると思うの。
 ごめんなさいね、何か待遇改善などの要望があれば言ってね」

 厨房のスタッフは、皆嬉しそうに笑う。
 「ありがとうございます!
 私共は、姫様のお陰で珍しい食材や素晴らしい料理に、毎日触れられるのがとても嬉しゅうございます。
 今日も、一同腕を振るってお祝い膳をこしらえますので、お楽しみになさって居てくださいませ」

 今日?
 お祝い膳?

 あたしは訊こうと思ったけど、皆仕事に戻り、真剣な雰囲気になってしまったので、あたしは仕方なく腰を上げた。

 そこへゆらちゃんが「姫様、お待ちかねのコレ、お使いいただけますよ」と言って、麻の袋に入ったものを手渡してくれた。

 お待ちかねのコレ?
 何だろう。

 部屋まで戻って麻の袋を開けてみると、出てきたのは。

 餅網??
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