三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

文字の大きさ
285 / 307
第十一章 露顕と三日夜の餅

19.餅つき大会

しおりを挟む
 釣殿へ続く長いきざはしの下まで来ると、小さな輿が二基置いてあって、担ぎ手の人たちが平伏していた。
 
 あたしが神護寺から山を下って来た時に使ったような、屋根と壁のある輿ではなく、床に座布団が敷いてあるだけの簡素なものだった。

 「月子姫はこちらへ」と主上が言ってあたしを輿のひとつに乗せる。
 そして自分はもうひとつに乗った。
 
 妙に間延びした掛け声をかけ、輿がゆっくり持ち上がる。
 ひとつの輿を四人で担ぐ、そのバランスが絶妙で、あたしは驚いた。

 斜めになることなく、輿は階段をゆっくり上がっていく。
 主上はともかく、あたしは階段くらい自分で上がりますですよ、申し訳ない。

 元関白殿の所有する釣殿は、元右大臣家の釣殿とは比べ物にならないほど広かった。
 御簾がすべての面に降ろしてあり、良い天気なのに薄暗い。

 ただ、その御簾は部屋にあるものよりだいぶ目が粗く、御簾を降ろしたままでも外の景色が見られるようになっていた。
 よく考えられてるな。

 それにしても、池も広大!庭も果てしない!
 元関白の権力の絶大さを物語っているわ。

 母屋の方向へ置き畳があり、座布団が二つ、並べてあった。
 主上があたしの手を取って輿から降ろしてくれる。
 二人並んで外の様子を眺める。

 餅つきが始まっているようだ。
 六基の臼の周りにそれぞれ人が集まり、威勢の良い掛け声をかけながら餅を搗いている。
 厨司長や厨房のスタッフの人たちも、蒸しあがったもち米を次々に運んできて、忙しそうだ。

 っていうか、え?主上と二人で?これ見るの?
 あたしが思わず主上を見上げると、主上はにこりと笑って、あたしの手に口づける。

 「公達も、そなたと治部卿の三日夜の餅を手ずから搗きたいと、ほら、あそこに集まって居る。
 今、治部卿本人が搗いて居りますよ」

 えっどこ?
 あたしは主上の手を振りほどいて身を乗り出す。

 あ、居た!!

 釣殿から見て一番手前の臼が、公達の集まっているもののようだ。
 若い衆と同じように肩肌脱ぎになった元信様が、やんやの喝采の中、餅を搗いている。
 捏ね取りの人と息を合わせて、テンポよく杵を振り下ろし、また振り上げる。

 す、て、き…♡
 
 あたしは胸の前で両手を打ち合わせて、元信様の姿に見入る。
 若い衆には負けるけれど、上品に鍛えられた元信様の上半身を見て、あたしはなんだかドキドキする。
 今夜もまた…情熱的に…

 急に肩をつかまれて、抱きしめられる。
 あたしは驚いて声を上げる。

 えっ…何?
 主上?

 「そなたたち二人の絆はとても強い。
 私たちや、それから二人を取り巻く状況が過酷な仕打ちをしても、まったく揺らがない」

 「しかしそれが解っていてもなお私は、あなたが首に治部卿の愛のしるしをつけているのを見ると、胸が引き裂かれるように辛い。
 何故…あなたは、この世界に来て、治部卿を愛したのだ…」

 主上はあたしの顎に手をかけて仰向かせ、抵抗するあたしを強く抱きしめたまま強引に唇にキスする。
 あたしは頭を振って離れようとするけど、力の差が歴然でまったく動けない。

 嫌だ…!
 助けて!
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...