三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第十二章 終わらない物語

1.餅撒きの実態

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 釣殿の階段を登った時と同じような輿に乗せられ、輿の行列がお屋敷の庭の端に設えられたやぐらに向かう。
 既に人が集まっているのか、ざわざわと大勢の人の声が屋敷内まで聞こえる。

 櫓と言っても、すごく広い。
 盆踊りの太鼓を叩く櫓を、もっとずっと大きくしたような感じ。
 舞台と言った方が良いかも。
 三分の二が屋敷内の敷地、三分の一が壁の外に出っ張っている。

 公達は櫓の下で輿を降り、自力で階段を登っていったが、あたしと東宮は輿のまま上まで行く。
 上に着いて、東宮に手を取られて輿を降りる。

 東宮は「怖かったらすぐにおっしゃってください。輿はそこに待機させますから」と優しく言って、あたしの肩をぎゅっと抱く。
 
 慰めるような励ますような仕草に、あたしは違和感を覚える。
 怖いって??何が??
 この、高さが?

 残照の中、松明で明るく照らされた櫓から下を見ると…
 おびただしい数の人、人、人!!

 しかも…なに、この人たち。
 絵で見る餓鬼のように痩せ衰え、目は落ち窪み頬骨は出て、痩せさらばえた腕を懸命に伸ばして少しでも櫓に近づこうとしている。

 髪はざんばら、幽鬼のようなガリガリの体躯にぼろ布を纏い、男女の区別もつかない。
 どこから来たのか、全身汚れ放題で異臭がする。

 「・・・・・!」
 あたしは声にならない悲鳴を上げ、東宮にしがみついた。

「月子姫!」
 あたしを抱きしめた東宮が小さく叫ぶと、公達が寄ってくる。
 
 「月子姫、戻りましょう」
 皆が口々に言ってあたしを輿に乗せようとする。
 
 あたしは懸命に首を横に振った。
 これが何だかわからないうちに、何なのか知らないうちには戻れない。

 「だ…いじょうぶ…
 だけど、東宮様、このままでいて…」
 あたしが震える声で言うと、東宮は抱きしめた腕にさらに力を籠め、耳元で優しく囁く。
 
 「大丈夫ですよ、ずっとこうしていますよ。安心して。
 危害を加える輩じゃない」

 顔を上げ、右近衛大将様に向かって声をかける。
 「私はこの状態だ、そちが皆の者に合図してくれるか」

 「承知しました」
 と右近衛大将様が前に出て声を張る。

 「皆!
 主上とこの屋敷の新しい女主人からの、祝いの餅だ。
 有り難く頂戴して、この恩に報いるように。
 争わずに皆に行き渡るように、皆の口に入るように譲り合ってくれ」

 そう言う側から人が押し寄せ、衛士ががっちり櫓の脚を守っているにも関わらず櫓が揺れる。
 あたしは恐怖で東宮の綺麗な直衣に爪を立てる。

 「では、始め!」
 右近衛大将様の号令で、櫓の端から端まで並んだ家人たちが「ひとーぎ!ひとぉぎ!」と言いながらたくさんの餅をバラバラと撒く。

 わーっとかぎゃーっとか、怒号のような声が響く。

 「お祝いという感じではないですね」
 蔵人頭様が苦く言う。

 「この夏、賀茂川が氾濫して疫病が流行り、更には日照りもあったからな。
 近在の者共が食い詰めているとは聞いていたが…想像以上だ」
 東宮はあたしを抱きしめながら低く言う。

 そうなんだ…
 あたしは唇を噛んだ。
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