300 / 307
第十二章 終わらない物語
9.真正・三日夜の餅
しおりを挟む
皆を見送り、母屋の自分たちの部屋に戻ってくると、あたしは疲れて座り込んだ。
「ああ~、長い一日だった…」
朝、厨に行ったのが凄い前のことみたい。
「お疲れ様でした。
今日も大活躍でしたね」
元信様が笑いながら入ってくる。
大活躍っていうか…
もう何だか訳判らんわ。
「元信様こそ…気を失ったりして、大丈夫ですか?」
あたしが元信様を見上げて言うと、跪《ひざまず》いてあたしをきつく抱きしめる。
「香織が、主上に無理矢理ものにされてしまうのではないかと思ったら、そして私では香織の夫たり得ないと香織本人がおっしゃったと聞いたとき、あまりの衝撃に一瞬にして意識が遠のいてしまいました…」
主上も意地悪だよね…
ドSの主上とドMの元信様で、相性良いのかもしれないけどさ。
なんちゃって。
「だけど、元信様、釣殿に飛び込んでいらしたとき『かおり!』って大きな声でおっしゃったでしょう。
主上に知られてしまいましたわ」
と言うと、「えっ…」と呆然とした表情であたしを見る。
「もう無意識で、とにかく香織を助けなければとそれだけしか考えていなかったので、何を叫んだのかは…覚えていないのです」
それから悔しそうに拳を握った。
「よりによって、主上に香織の名前を知られてしまったとは…
不覚でした…」
まあ…仕方ないよ。
あたしは元信様の肩に手を置く。
「直衣も乱れたままに息を切らして飛び込んできてくださって、わたくしはとても嬉しゅうございましたわ。
香織は元信様に愛されているのだなって判って」
「香織…」
元信様は潤んだ瞳であたしを見つめ、そっと唇にキスした。
「愛している…
香織を好きな、他の誰より、私が一番あなたを愛している」
「この胸を開いて、私がどれほど香織を愛しているか見せられたら良いのにと思う」
そう言ってあたしを抱きしめて唇を重ねた。
「三日夜の餅、やっとこの日を迎えられましたね。
長かった…」
元信様が耳元で囁く。
あたしは心から頷いた。
ほんっとだよね…
いろーんな障害や邪魔を乗り越えて、やっとここまで来た。
「元信様もわたくしも今日までよく頑張ったと。
お互いに褒め合いましょ」
あたしが笑って言うと
「香織のそういう、明るいところが私は大好きですよ。
私の考えすぎな部分を補って余りある」
と元信様も笑った。
そして「式部、持ってきてくれるか」と、御帳台の外に声をかけた。
「はい」と式部さんの声がし、後ろ側の入り口から「失礼いたします」と何かを捧げ持って入ってきた。
あたしと元信様の前に置いて
「おめでとう存じます。
わたくし共、女房一同も大変嬉しく存じます」
と丁寧に頭を下げた。
そして「何かありましたらお呼びくださいませ」と下がっていった。
それは、花の形を彫刻した脚付きの銀のお皿に盛られた、小さな丸い餅だった。
「これが正式な『三日夜の餅』です。
香織と二人で食べたかった」
元信様は、銀の箸を取って餅をひとつつまんで、あたしの口に入れてくれた。
甘味の少ない、シンプルなお餅。
あたしもお箸を受け取って、お餅をひとつ、元信様の口に入れる。
二人でもぐもぐして飲み込むと、元信様は感極まったように「香織…」と言って身を乗り出し、あたしをぎゅっと抱きしめた。
「ああ~、長い一日だった…」
朝、厨に行ったのが凄い前のことみたい。
「お疲れ様でした。
今日も大活躍でしたね」
元信様が笑いながら入ってくる。
大活躍っていうか…
もう何だか訳判らんわ。
「元信様こそ…気を失ったりして、大丈夫ですか?」
あたしが元信様を見上げて言うと、跪《ひざまず》いてあたしをきつく抱きしめる。
「香織が、主上に無理矢理ものにされてしまうのではないかと思ったら、そして私では香織の夫たり得ないと香織本人がおっしゃったと聞いたとき、あまりの衝撃に一瞬にして意識が遠のいてしまいました…」
主上も意地悪だよね…
ドSの主上とドMの元信様で、相性良いのかもしれないけどさ。
なんちゃって。
「だけど、元信様、釣殿に飛び込んでいらしたとき『かおり!』って大きな声でおっしゃったでしょう。
主上に知られてしまいましたわ」
と言うと、「えっ…」と呆然とした表情であたしを見る。
「もう無意識で、とにかく香織を助けなければとそれだけしか考えていなかったので、何を叫んだのかは…覚えていないのです」
それから悔しそうに拳を握った。
「よりによって、主上に香織の名前を知られてしまったとは…
不覚でした…」
まあ…仕方ないよ。
あたしは元信様の肩に手を置く。
「直衣も乱れたままに息を切らして飛び込んできてくださって、わたくしはとても嬉しゅうございましたわ。
香織は元信様に愛されているのだなって判って」
「香織…」
元信様は潤んだ瞳であたしを見つめ、そっと唇にキスした。
「愛している…
香織を好きな、他の誰より、私が一番あなたを愛している」
「この胸を開いて、私がどれほど香織を愛しているか見せられたら良いのにと思う」
そう言ってあたしを抱きしめて唇を重ねた。
「三日夜の餅、やっとこの日を迎えられましたね。
長かった…」
元信様が耳元で囁く。
あたしは心から頷いた。
ほんっとだよね…
いろーんな障害や邪魔を乗り越えて、やっとここまで来た。
「元信様もわたくしも今日までよく頑張ったと。
お互いに褒め合いましょ」
あたしが笑って言うと
「香織のそういう、明るいところが私は大好きですよ。
私の考えすぎな部分を補って余りある」
と元信様も笑った。
そして「式部、持ってきてくれるか」と、御帳台の外に声をかけた。
「はい」と式部さんの声がし、後ろ側の入り口から「失礼いたします」と何かを捧げ持って入ってきた。
あたしと元信様の前に置いて
「おめでとう存じます。
わたくし共、女房一同も大変嬉しく存じます」
と丁寧に頭を下げた。
そして「何かありましたらお呼びくださいませ」と下がっていった。
それは、花の形を彫刻した脚付きの銀のお皿に盛られた、小さな丸い餅だった。
「これが正式な『三日夜の餅』です。
香織と二人で食べたかった」
元信様は、銀の箸を取って餅をひとつつまんで、あたしの口に入れてくれた。
甘味の少ない、シンプルなお餅。
あたしもお箸を受け取って、お餅をひとつ、元信様の口に入れる。
二人でもぐもぐして飲み込むと、元信様は感極まったように「香織…」と言って身を乗り出し、あたしをぎゅっと抱きしめた。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる