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閑話 ???の話
しおりを挟む『お願いです――』
その少女はさめざめと泣きながらその人達に訴えかけた。その魂は義両親に恩を返したいのだと訴えていた――
疫病が蔓延していた村に来た夫婦――兵士に包囲され、村からは逃げ出せず明日は村ごと焼き殺されるかもと恐怖に震える村の中に、その人達は現れた。
医術師である彼等は村の人達を救ってくれた。少女の実の両親は死んでしまったけれど、少女は彼等に生かされた――。その時の感謝をどう現わせば良いのか。
その上、病の爪痕が残る村の人達はどうしても少女を引き取れる状況では無かったので、夫婦は少女を養女にしてくれたのだ。恩はそれだけでは無い。
少女の顔には病による痣が残った。心無い人は、少女を汚いものや忌むべきものとして石を投げたりしてきたけれど、義両親は「大好きだよ」と少女を抱きしめてくれたのだ。
あまつさえ、人々の好奇の目を気にする少女の為に王宮医師を辞し、両親の故郷だと言う村へと連れて行ってくれた。村の人達は大らかで、少女にも優しかった。実の両親は喧嘩ばかりで、父親は飲むと少女を殴り、母は庇ってくれた事も抱きしめてくれた事も無かったから、それが少女の人生に於いて一番幸福な時間であった。
けれど
幸福な時間は長く続かない。村で飢饉が起こったのだ。切っ掛けは収穫間近の麦がイナゴの大群に食いつくされた事だった。間の悪い事に、周囲の森の実りも少く近隣の村々でもそれなりに被害が出たので助けて貰えるような状況では無い。王都は遠く、行商人は街道に野盗が出るとかで村に近寄らない。
酷い状況だった。飢えはあっという間に人の心を壊した。空腹に耐えかねて毒キノコを食べた人が死んだし、ギスギスした空気で小競り合いが増えた。
そんな中でも義両親は惜しみない愛情を持って少女を育てた。食べられる木の根や木の皮……少ない食べ物を自分達は食べたからと言って少女に与えたのだ。
少女の中に感謝が雪が積もるように重なって行く……。
王都からの救援が村が雪に閉ざされる前に間に合ったのは幸いだった。けれど、義母はこの事が原因で身体が弱くなってしまった――義母が熱を出す度に申し訳ないと思う日々が続いた。
そんな或る日、少女は行商人から医術師の学校には奨学金制度がある事を聞く。それは少女に希望をもたらした。
飢饉の時に義両親の蓄えはかなり減り、学校に行きたいと言える状況では無かったからだ。
――私を救ってくれた恩返しを、医術師になれば出来るかもしれない……。
少女は義両親に頼みこみ、医術の勉強を教えて欲しいと願った。
最初、義両親は反対した。少女に対する王都の人々の対応を危惧したからだ。けれど、少女は多大なる熱意を持って説得し、大きな溜息と共に許可を得た。そうしてじっくりと勉強を教えて貰い、少女は王都に行く事になる。
『気を付けて行くのよ……』
義母がそう言って抱きしめてくれた温もりを、少女は今も覚えている……。
寂しそうに微笑む義母に、きっとやり遂げて帰って来ると誓った事もだ。王都へは、義父が送ってくれる事になった。義母を暫く一人にする事になるので反対したのだが、義母の状態が落ち着いている事と義母が自分で自分の薬を調合できるからと送って貰う事になったのだ。
手を振る義母が見えなくなるまで手を振った。きっと帰って来られると信じて――少女は思いもしなかった。これから起こる更なる災厄を――。
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読みに来て頂きありがとうございます!
閑話を入れる事にしました。短めのものを含め、3話程で本編に戻れると思います……。
応援ありがとうございます!
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